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2016年3月18日 (金)

また入院中

2月にまた、発作で倒れ、また入院中です。

多くの皆様にまた、ご迷惑をおかけしております。
本当に申し訳ございません。

2016年2月 7日 (日)

新しい本がPHPから出ます

2月中旬、都市部の書店では2月20日(土)・21日(日)には並ぶと思われますが、下記の新刊がPHPから出ます。

吉本佳生著『学校では教えてくれない経済学の授業』(PHP、2016年2月刊)
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これまで私が拙著を献本させていただくことが多かった方々、昨年12月と今年1月に東京でお目にかかった方々には、献本させていただく予定でリストを作成しております。
ただ、過去にこのブログでもご報告させていただいたように、2014年11月下旬に私は大阪市内で脳出血を発症して倒れ、その後、特任教授として勤務していた関西大学を任期切れで2015年3月末に退職し、今年1月には名古屋の家を売却したため、研究室の整理や自宅の整理の際に過去にいただいた名刺の多くを破棄してしまいました。
そのため、電子メール、facebook、LINEでご連絡できる方には、できるだけ献本先を確認させていただいております。しかし、すべての連絡先を復旧させることはできませんので、過去に私のゼミに所属した人をふくめて、最新の拙著をご希望の方は、送付先のご住所などをぜひご連絡いただきますようお願いいたします。
本書の見本は11日に広島の自宅に届き、その後、私は大阪・名古屋・東京に行って、東京では、今年これから執筆するマクロ経済学の教科書についての打ち合わせをする予定です。
今年は、できれば、本書をふくめて4冊の原稿を仕上げたいと考えています。あと1冊分の原稿はすでに仕上げて、2014年夏からご相談を続けていた編集者さんにお送りしてあります。
大学教員の仕事は失ってしまいましたが、おかげさまで、まだまだ原稿執筆のお仕事のご依頼はいただいております。
たくさんの方々にご心配いただきましたが、体調はほぼ回復しております。
今後とも、執筆活動を中心にして、世の中の役に立つ仕事ができればと考えておりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

2016年2月 2日 (火)

続・データの読み方・示し方についての講演を無料で公開します

昨日公開した無料公開動画の続きです。

昨日のものがデータの読み方、本日のものがデータの示し方です。
どうぞよろしくお願いします。

2016年2月 1日 (月)

データの読み方・示し方についての講演を無料で公開します

先月、3年前にも呼んでいただいた自動車メーカーの方からのご依頼で、東京で、データの読み方についての講演をしてきました。知人の中に、それを聴きたかったという人が複数いましたので、ほぼ同じ内容のプレゼンテーション動画を制作し、無料で公開すると約束していました。2016年1月のうちにと約束していましたが、実際には、1月を過ぎての公開となってしまいました。

それとは別に、読売新聞の記者が、昨夏に出た本に関連してWebに載せる原稿を書いてほしいと依頼してきたので、こちらは1月末までに書いて送ったのですが、結局、載せないとの連絡がありました。そこで、このブログに載せます。
「家計調査と教育投資」
 全国学力テストで、公立小学校がいつも1位になる秋田県です(2015年で8年連続の1位となりました)が、大学進学率は低いことが批判されたりします。確かに、大学進学率の1位は東京都で、男女ともに7割を超えているのに対して、秋田県は男女ともに4割を下回っています。
 しかし、学歴は、第一に、それが就職につながってこそ、意味があると、筆者は考えます。第二に、無制限にお金をかけて、学歴を買える親の子供だけが、高学歴を獲得できるのであれば、教育が経済格差をさらに拡大する可能性があります。低所得世帯に生まれた子供でも、教育によって、経済格差を縮めることができるかどうかを考えると、教育投資における投資効率も大切です。
 日本の総務省が実施している「家計調査」は、諸外国には見られないほど、詳細なデータを収集しています。他の国は、たいてい、消費者物価を計算するための基礎データとして類似調査をしているのに対して、日本は、たくさんの世帯に、買い物をした商品について質量等を測ってもらうための器材を配布し、膨大な調査をおこなっています。
 毎年、餃子消費1位の街が宇都宮市なのか、浜松市なのかの争いで注目を集める家計調査ですが、教育投資の分析にも使えます。筆者が2015年夏に出版した『マーケティングに使える「家計調査」』(講談社)で示した、2012・13年の平均での数値に基づいて、説明しましょう。
 秋田県の県庁所在市である秋田市は、家計が高校補習教育・予備校に支払う金額で全国最下位です。その上で、一定数の国公立大学合格者を出しているため、家計が支払う国公立大学授業料を教育費で割って、投資効率を計算すると、全国1位になります。なお、高校補習教育・予備校に支払う金額が全国1位の県庁所在市は、奈良市です。奈良市は、国公立大学授業料でも1位で、大学入試直前に多額の資金を投じて、結果を出していると言えます。東京都区部は、幼児・小学校補習教育の支出で2位、私立大学授業料でも2位です。子供が低年齢のうちから教育投資に金をかけていること、また、小学校から大学までエスカレーター方式で進学できる名門の私立大学に通わせる家庭が多いことがうかがえます。
 かつては、高所得世帯の子供が私立大学に進学し、低所得世帯の子供が国公立大学に進学するという棲み分けがあったように思いますが、2002・03年のデータと、10年後の2012・13年のデータを比較すると、世帯年収を5段階に分けて、最上位の世帯が、かつては私立大学授業料で大きなシェアを占めていて、確かに、子供を私立大学に通わせる傾向が強かったのが、近年は、国公立大学授業料でも過半数のシェアを占めるように変化しています。低所得世帯も、子供にかける教育投資を10年間でかなり増やしたのですが、高所得世帯はもっと増やしていて、マネーゲーム化した教育投資の競争が、親の経済格差を子供に引き継がせる方向に働きかねない状況を作り出しています。なぜなら、国公立大学は、政府の補助によって、授業料が安く抑えられている上に、就職においてもブランド力が高く、高所得世帯の子供が国公立大学卒業の学歴を低コストで獲得して、高所得を稼ぎやすくなるのであれば、経済格差が親から子供に引き継がれてしまうと考えられるからです。
 その中で、公立小学校の教育がしっかりと結果を出している秋田県などは、経済格差の是正に教育が役立つ可能性をもたらしてくれるものだと考えられます。秋田県の大学進学率が低いからという理由だけで、批判せず、全国学力テストでいつも1位を争う秋田県や福井県をもっと評価するべきでしょう。
 また、2014年3月に高校を卒業した生徒について、大学進学率と就職率を合計すると、岐阜、三重、福井、愛知、静岡、秋田、山形、広島の10県がトップ10となります。大学への進学も重要ですが、多くの子供は、あくまで良い就職を求めて、そのステップとして大学に進学します。また最近は、社会人向けの大学・大学院教育が充実してきましたから、高校卒業後に就職して、資金を蓄えてからまた学び直すことも可能です。奨学金の制度がもっと充実すればいいのでしょうが、子供自身がまず稼いで、その後に学ぶという順での教育投資も考えれば、高校卒業段階での就職率もふくめて評価するという視点も必要でしょう。
 なお、大学卒業後の就職率については、卒業予定の最終学年の大学生・短大生に対して、文部科学省と厚生労働省が共同で調査を実施しており、最終学年の10月から、12月、翌年2月、そして卒業後の4月に、就職内定率と就職率を調査・計算して、公表しています。
 就職希望率と、就職内定率を、各時点で調査しているのですが、男女別に分けて、また、国公立・私立大学に分けて、さらに、文系・理系別、地域別でも、統計を整理しています。Excel形式でダウンロードできますから、筆者も何度か分析に使いました。
 相対的に、私立大学の女子学生が粘り強く、2月に内定をもらっていなくてもあきらめずに、ラストスパートで就職を勝ち取る学生がけっこういます。他方で、国公立大学の男子学生は、もともと、就職希望率が低かったりします。
 平成26年4月から働き始めた大学卒業者について、地域別の就職率を見ると、一番高いのは、関東地域で、96.4%、次が中部地域で95.4%、さらに、近畿地域が93.8%、中国・四国地域と北海道・東北地域が同率で92.8%と続きます。一番低いのは、九州地域の90.8%でした。
 筆者も、かつて名古屋にある私立大学でゼミを持って教えていたときに、大半の学生が、就活期間中だけ、東京か大阪に拠点を構えて(親戚の家に泊めてもらうとか、ウィークリーマンションを借りるとかして)いたことを記憶しています。それでも、企業説明会のエントリーが、特定の大学の学生だけで締め切られることが多いため、就職活動がなかなか進められないと嘆く学生が多かったことが印象に残っています。
 そうした事情をよく知っている親は、最初から、子供を関東か関西の大学に進学させようとします。実際に、筆者が勤めていた大学の卒業生で、地元の有力信用金庫の役員だった方から、「ウチの息子が合格しましたが、関西にある某大学の方に進学させます。申し訳ありません」と言われたことがあります。どの親も、子供の教育投資にはずいぶん多額の資金をかけていますから、仕方がないと考えます。
 家計調査のデータは、様々な分析に使えます。地域振興のために活用することもできるでしょうし、実際に、うまく利用したのが、「ギョーザの街」としてアピールした宇都宮市です。しかし、家計調査が示す餃子消費のデータは、テイクアウトだけを集計していますから、宇都宮市内の外食での餃子が美味しいことを保証するものではありません。それでも、公的なデータで、こんなに整理されたものがあるのですから、高い予算を使ってマーケティングリサーチの専門企業とかに依頼しなくても、もっと公的統計を、マーケティングや地域振興に活用するべきだというのが、筆者の主張です。どれも、日本政府が莫大な公金と人員を投入しておこなっている調査だからです。
さて、データについての講演動画は、下記にリンクがあります。グーグルドライブに保存してある動画ファイルですが、クイックタイム形式ですので、プレイヤーをインストールした上でご覧ください。
まず、データの読み方の方の動画です。2つに分かれています。
データの示し方を中心にした、残り3つのファイルは明日、公開します。

2015年10月 3日 (土)

プラザ合意30周年とFRBの利上げ

 1985年9月22日にニューヨークのプラザホテルで開催されたG5、先進五カ国蔵相・中央銀行総裁会議でドル高是正のための協調介入の合意、いわゆるプラザ合意が発表されてから、今年で30周年です。G5とは、アメリカ、イギリス、フランス、当時の西ドイツ、日本の五カ国。日本の参加者は、竹下登大蔵大臣、澄田智日本銀行総裁でした。

 プラザ合意のあと、1ドル=250円前後だった円相場が円高に進み、2年後の1987年にはルーブル合意がおこなわれ、さらに円高になりましたが、翌月、1987年10月19日には、当時としては史上最大規模の世界的な株価暴落が起きて、ブラックマンデーと呼ばれました。FRBの金融政策運営がゴタゴタして、8月には、ポール・ボルカー議長が政策運営についてのクーデターによって辞職し、アラン・グリーンスパン議長に交替していたことがあり、マーケットから信頼を得ていないところへ、西ドイツとアメリカの政策協調に疑念が生じていたこともありました。

 ボルカーは、1970年代からアメリカ経済が抱えていた深刻なインフレに対し、人々のインフレ予想を叩き潰す高金利政策の徹底(ルールに基づく通貨量の変更)で対処し、成功した凄腕の中央銀行総裁でしたが、ボルカーの金融引締政策と当時のレーガン大統領の財政拡大政策の副作用としてのアメリカの高金利がブラジルやアルゼンチンなどの累積債務問題を深刻化させたこともあり、周囲の批判も強いという状況でした。

 グリーンスパンは、その後、株式市場などの金融市場参加者から、神様のようにあがめられることになるのですが、そんな人でも、デビュー直後はルーキーとしての洗礼を浴びたということでしょう。

 ただ、その後の調査報告によれば、ブラックマンデーの数年前から流行していたポートフォリオインシュアランスと呼ばれる資産運用手法が、暴落の根本原因だったと指摘されています。オプション取引のヘッジをオプション自体の取引の代わりにおこなうやり方で、株価が下がれば、それに応じて少しずつ株を売っていくことで、オプションを保有しているのと同じ効果を狙うものです。コンピュータープログラムでこの手法を採用して巨額の資金を動かすファンドが当時広まっていて、そうしたファンドが、株価下落時に一斉に売却の注文をプログラムによって自動で出し、その結果、ますます株価が下落し、さらに売却指示につながり、下落が加速して……という悪循環に陥りました。ポジティブ・フィードバックと呼ばれる現象です。

 情報技術に裏付けられた金融技術の進歩が、株式市場の大暴落につながったのでした。また、政策協調の失敗も重要なポイントでした。

 日本の株価は、日経平均株価が1989年12月に史上最高値をつけて、バブル経済のピークを迎えましたが、当時の三重野康日本銀行総裁の徹底したバブル潰しによって、株価は暴落し、日本の景気は急激に冷え込みました。バブル経済の時期には、ふつうのサラリーマン世帯が都心部に家を持つことがまったく望めなかったこともあり、三重野総裁の政策はマスメディアからも支持されていました。

 しかし、金融引締政策が長く続いた結果、日本の景気回復はその後大幅に遅れました。この1992年から2002年までの期間を、一般的に、失われた十年と呼びます。

 ヨーロッパのうち、フランスとドイツを中心とした国々は、1999年1月から共通通貨ユーロを導入し、当初は電子通貨として流通させました。そして、2001年9月からはユーロ紙幣の流通が始まりました。2002年にはギリシャがユーロ圏に入ることを認められて、ユーロを導入しました。ただし、実際にはギリシャは基準を満たしていなかったのに、粉飾決算をして加わったことが、あとから判明して問題となりました。ユーロによる通貨統合は、経済学者ロバート・マンデルの最適通貨圏の理論を基礎にしていますが、生産要素である労働・資本が圏内を自由に移動できることなどが、最適通貨圏の必要条件となります。ユーロ圏は、実際には最適通貨圏の条件を満たしておらず、失敗は不可避だったと言えます。

 他方で、1999年から日本銀行が政策金利をほぼゼロにするゼロ金利政策を導入し、2000年に一時解除したものの、2001年にはゼロ金利に復帰しました。この経験が、その後、日本銀行が不況の元凶であるとの指摘を受けるきっかけとなります。ゼロ金利政策の解除が、日本の不況を決定的にしたとの批判が強まり、第二次安倍政権がインフレ目標を採用して景気刺激をしようとする日本銀行総裁・副総裁を登用する伏線となりました。

 アメリカでは、金融技術の進歩が新たな市場を作り出していました。先物・スワップ・オプション取引などのデリバティブ取引が発展し、それらを組み込んで複雑化した資産運用商品が次々と登場しただけでなく、金融の素人にはまったく理解できないような資産運用商品が生み出せるようになっていました。さらに、証券化の手法を使って、危険性が高い資産運用商品の中から相対的にリスクが低い部分だけを抽出するやり方が進歩し、その行き過ぎがいわゆるサブ・プライム・ローン問題を引き起こしました。

 2008年9月には、アメリカの大手投資銀行だったリーマン・ブラザーズが経営破綻し、リーマン・ショックと呼ばれました。この時期には、日本でも、アメリカの投資銀行や日本の大手金融機関(メガバンクや大手証券会社など)に騙された人たちが、騙されて(きちんとリスクなどの説明を受けずに投資をして)ただハイリスクだった資産運用商品によって巨額損失を被っています。最大手証券会社である野村證券が全国で売りまくっていた資産運用商品は、証券化を組み込んではいますが、一流企業の株式を10社とか20社とか合わせて証券化したもので、その中でリスクが一番高い部分を顧客(結果として巨額損失を被った投資家)に販売していました。証券化の使い方としては本末転倒も甚だしいと言えます。また、アメリカの国債が30年満期であるのに合わせて、運用期間を最長30年にしたユーロ円債を、債券の格付が高い北欧の政府系金融機関が発行したパターンも流行しました。メガバンクはふつう、グループの証券会社を紹介してユーロ円債を売り込みましたが、三井住友銀行は、30年満期のアメリカ国債を活用して、自ら同じ仕組みの指定金銭信託を作り出し、顧客に売り込みました。学校法人、医療法人、宗教法人、地方金融機関(地方銀行や信用金庫など)、地方自治体、地方自治体の外郭団体、個人富裕層などが、投資家として被害者となりました。こうしたデリバティブ組み込み型金融商品を一般向けに提供している新生銀行に取材に行ったとき、販売部門の責任者が、決して好意的でない私たちを追い出す直前に、「最後にひとつだけ言わせていただきたい。この商品は、いわゆるVIP顧客に向けて提供して好評をいただいているものを、広く多くの皆様に提供しようと工夫したものだから、批判されるような商品ではありません」と言い切りました。……現実には、VIP顧客に対してもやたらにハイリスクなボッタクリ商品を提供していたというだけです。

 こうした事情があって、リーマン・ショックのあと、日本では資産運用での巨額損失が相次いで表面化しました。有名大学の事例もあり、金融の研究・教育を売り物のひとつにしている大学が、巨額損失を隠蔽するために、専門家としては不適切な言い訳をしていたケースもありました。

 さて、大規模な金融緩和政策によってインフレ率を高め、景気刺激につなげるべきだと主張する人たちは、リフレ派と呼ばれました。2012年11月に、民主党の野田政権が衆議院を解散し、自民党が政権に復帰すると、リフレ派と結びついた第二次安倍政権の経済政策、いわゆるアベノミクスがブームとなり、日本銀行総裁には、麻生財務大臣の飲み友達でもあった黒田東彦氏が指名されました。

 2014年に、アメリカの中央銀行であるFRBの議長に、史上初めて、女性のジャネット・イエレン先生(ビル・クリントン大統領のときに大統領経済諮問委員会委員長を務めた経済学者)が就任しました。夫は、逆選択の理論でノーベル経済学賞を受賞したジョージ・アカロフ先生です。イエレン議長には、リーマン・ショックのあとで景気を回復させるためにFRBがおこなってきた量的金融緩和政策(QE)を収束させる役割が求められています。

 FRBが政策金利を引き上げるチャンスはこれまでもあったと思われますが、それを見送り、いよいよ利上げかと注目された2015年9月のFOMC(金融政策について議論する会議)でも利上げは見送られました。アメリカがいま利上げすると、発展途上国の経済に悪影響を与えるとの懸念が、8月のG20の際に指摘されていて、それに配慮したのかもしれません。

 しかし、FRBが利上げを見送った直後から、世界の株式市場で不透明感が強まり、株価が連鎖的に下落してしまいました。いまさら結果論を述べても仕方がないことですが、FRBは9月に利上げしておくべきだったと思わずにいられません。これで、12月に利上げとなったとの見方が出ていますが、9月と12月は記者会見が準備されているから、重大な政策変更がやりやすいというだけで、必要があれば記者会見はおこなうと、イエレン議長はおっしゃっていたはずなので、10月に利上げを決断していただきたいと願っています。

 プラザ合意がおこなわれた1985年9月から現在まで、日米欧の政策協調と、アメリカの金融政策(国際通貨である米ドルの金利)がブラジルやアルゼンチンなどの累積債務を抱える発展途上国経済にどんなダメージを与えるかが、重要なテーマになっています。また、金融技術と情報技術の進歩がショックの規模を大きくさせる原動力になっています。このあたりの「歴史は繰り返す」という性質は、やはり普遍的なものだと感じます。

 だからこそ、断固として金融引締政策に転じる姿勢を見せつけ、今後の金融政策運営の余地を広げておくことが、イエレン議長に期待されている役割で、今年の内には利上げをおこなうべきだと考えられます。そうであれば、世界中の株式市場のためにも、10月に利上げしてガス抜きをしておくべきでしょう。

 10月に利上げをしないと、12月に利上げをするしかなくなり、ラストチャンスとなってしまいます。そして、12月が利上げのラストチャンスと限定されてしまうと、金融市場参加者が利上げを見透かして対応するため、政策効果が大幅に小さくなってしまう可能性があり、それを避けたければ、予想されないタイミングで利上げすべきです。12月まで待って利上げするよりも、そう信じる人たちが多いことの裏をかいて、10月に利上げするほうが望ましいというのが、私の意見です。果たして、イエレン議長が率いるFRBは、どう判断するでしょうか? 興味深い話です。

 アメリカの労働省が10月2日に発表した9月の雇用統計は、非農業部門の雇用者増が14万2000人で、7月と8月の雇用者増も下方修正され、失業率は横ばいの5.1%と、この7年で最低の水準を保ちました。CNNは「10月利上げの可能性は遠のくか」と伝えています。

 ただ、現在のような難局面で、アメリカの金融政策を運営しているFRBの議長が、他ならぬイエレン先生であることについて、私は本当に良かったと感じています。何と言っても一流の経済学者であり、セントラルバンカーとしての仕事をこなしているときにも、現場の声にとにかく耳を傾ける姿勢でよく知られていて、仕事熱心なことで評価が高かった女性で、世界経済は最高のセントラルバンカーに託されていると言っていいでしょう。

2015年7月12日 (日)

新しい本が講談社から出ます

 来週、2015年7月14日(火)発売で、新しい拙著が出ます。

 書店に並ぶのも、14日(火)ぐらいからになると思われます。

タイトルは『マーケティングに使える「家計調査」

世界最大の消費者ビッグデータは「宝の山」だ』

出版社は講談社です。

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 ここ数年、私がいろいろな本で使ってきた統計データが、総務省による『家計調査』です。家計調査に似た調査は、欧米の主要先進国でふつうにおこなわれていますが、たいていは、消費者物価指数を計算するための基礎データを得るための調査で、日本の家計調査ほど詳細なものはありません。

 栃木県の県庁所在市である宇都宮市が、47都道府県庁所在市のなかで一番餃子の消費金額が大きいことを利用して、宇都宮を「ギョーザの街」として売り出しました。その後、静岡県の浜松市との間で、餃子の消費金額1位を巡る争いが毎年注目されていますが、これは、テイクアウトの餃子の消費金額を比べるもので、しかも、浜松市は政令指定都市として調査対象になっているだけですから、このデータは大したものではありません。それでもなお、家計調査の最新データが公表されると、テレビのニュースなどで、宇都宮市と浜松市の餃子の消費金額の比較が取り上げられます。宇都宮市が、巧みに、家計調査のデータを地域振興に利用していると感じられます。これでいいのなら、たとえば、納豆の消費でも、「水戸納豆」で知られた水戸市よりも、福島県福島市のほうが、消費金額でも消費量でも上回っていて、このように、地域振興に使えるネタはたくさんあります。当然ながら、それぞれの商品を販売する企業にとっても、マーケティングに使えるデータの宝庫だといえます。

 魚の消費に関していえば、鮭は北海道、秋刀魚は東北、マグロは東日本・太平洋側、鰤は西日本・日本海側の魚だという傾向がはっきりとしています。マグロについていえば、静岡県での消費が盛んで、静岡に近いところほど、マグロの消費が盛んであるといえます。

 また、酪農が盛んな北海道ですが、肉の好みでは、牛肉をあまり好んでおらず、牛乳などの乳製品の消費も少なく、肉では、鶏肉や豚肉を好むといえます、高知市の鰹、広島市の牡蠣の消費は、やはり群を抜いています。また、お好み焼きにかけるソースの味に特徴がある広島市は、ソースの消費量で1位となっています。

 コーヒーの消費量1位は京都市、紅茶の1位は神戸市で、1番高いコーヒーを好むのは金沢市です。金沢市は、生の洋菓子、和菓子、ケーキといったスイーツの消費量でも1位で、そうしたスイーツを楽しむために、高いコーヒーと紅茶を飲むという感じです。喫茶サービスそのものへの支出額が一番大きいのは、名古屋市で、岐阜市がそれに続きます。こうしたデータを大量に整理したのが、今回の拙著の特徴です。ビールと発泡酒の消費、冬物バーゲンでの、コートとセーターの消費、コンタクトレンズとメガネの消費の比較、食パンの値上がりが激しかったときの、消費者の反応などについても、取り上げています。

 消費者行動について、一般的に考えられそうな結論が、膨大なデータによってくつがえされる様子を分析したのが、第1部で、47都道府県庁所在市の食料消費のデータを整理したのが、第2部です。

 本書の冒頭は、全国学力テストで7回連続1位を達成した秋田県の義務教育が持つ価値についての考察から始まります。秋田市は、ほうれんそうの消費で1位で、秋田県とともに全国学力テストでいつも上位に入る福井県の県庁所在市である福井市も、ほうれんそうの消費量が目立ちます。昔は、野菜が嫌いな子どもにほうれんそうを食べさせるために、アニメのポパイが威力を発揮していましたが、いまの教育熱心なお母さんたちに、ほうれんそうを売ろうとするなら、秋田市と福井市の消費データのほうが、よほどアピールするのではないかと考えました。安く、レベルが高い公的な義務教育が重要なのは、子どもの大学進学を左右する経済要因が強くなってきて、親の経済格差が子どもに引き継がれやすくなってきているからです。このあたりの話も、家計調査のデータに基づいて、教育投資の投資効率という視点から分析しています。

 本書の原稿を書き上げたのは昨年の夏でしたが、そのあと、昨年11月末に、本書の初校ゲラが研究室に届いたタイミングで、私は、大阪市内で、脳出血で倒れ、救急車で運ばれて、緊急手術を受け、その後、手術をしていただいた大阪市内の病院でリハビリを始め、1月には、家族が住む広島の病院に転院して、リハビリを続け、4月には退院して、広島の自宅で療養を続けています。

 その1年以上前には、中学校時代の親友が、脳梗塞で倒れながら、リハビリをがんばって数ヶ月で仕事に復帰したのですが、彼が「お前も気をつけろ」と忠告してくれたのを無駄にしてしまいました。

 今回、突然に病気で倒れたことで、家族(妻、息子、母親)にも、その中学時代の友人にも、関西大学会計専門職大学院に特任教授として呼んでくれた、大学院時代の友人にも、たいへん迷惑をかけて、心配していただいたのですが、そして、それ以外にも、本当にたくさんの人たちにいろいろとご迷惑をおかけしながら、あれこれお手伝いいただいたのですが、とりあえず、1冊、新しい本が仕上がったことを、素直に喜びたいと思います。

 関西大学会計専門職大学院の特任教授の仕事は、ちょうど2014年度で任期が切れるという事情もあったため、昨年末で辞めてしまいましたが、大学で教える仕事自体は好きですので、まだこれから、別の大学を探そうと考えています。

 おかげさまで、本の原稿の依頼もまだまだいただいており、これから数年間は、執筆の仕事に困ることはないと思われます。

 広島の病院でリハビリをしている3月の末と、広島の自宅で療養している7月の初めに、それぞれ、発作(引きつけ)を起こしたのですが、どちらのときにも、近くに誰かがいて(病院のときには、理学療法士の先生がついてストレッチをしているタイミングで、また、自宅のときには、息子がたまたま中学校から早く帰ってきて、塾には行かない日だったため、別室にいて、私が倒れる音に驚いて駆けつけてくれて)、助けていただきました。最初に倒れたときのことを考えても、まだまだ、生きてやるべきことがあるという話だと思われますので、現在までに依頼を受けている原稿の執筆はもちろん、大学の教壇に復帰することについても、あきらめずにがんばろうと思います。

2014年10月16日 (木)

南山学園が野村證券などをデリバティブ損失の件で訴えた!

あちこちで記事が出ていますね。

ふつうにやったら勝てませんよ。いろいろ問題がありすぎです。
もちろん、証券会社のほうにも問題はある。
とりあえず、私自身は、南山側からでも、野村側からでも、もしご依頼があれば、喜んでアドバイスをしようと思っています。一般投資家に悪影響を与えないかたちでさっさと解決してほしいからです。どちらが勝ってもいい。速やかに、変な影響をもつ事例にならないように決着してほしい。そのためなら、どちらにでもアドバイスはします。有料ですけど。
三井住友銀行相手の金利スワップ裁判では、高裁での逆転を最高裁で再逆転されましたが、野村證券相手の当時の資産運用商品の裁判では、ものすごく実績があるんですよね。私は。おまけに、南山学園のほうの問題点もいろいろと知っています。
いまさら南山学園が勝っても、一般投資家には利益がない。負け方がひどいと、悪影響がある。それを避ける手伝いを私がする必要はないけど、万が一、なにかご依頼があれば、どちらにつくこともありうるし、その場合、一般投資家に不利益にならない決着に協力できればと思っています。
実際には、どちらからも嫌われているから、依頼は来ないでしょう。
あ、メールはこのブログから送れるはずです……どうせ来ないけど、こんな件でいまの特任教員先経由で連絡が来ても困るので、一応、書きました。

2014年8月27日 (水)

吉本佳生『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』(日本経済新聞出版社、2014年8月20日刊)についての著者コメント(4)

拙著『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』に関連して、CNN.co.jpに掲載された記事にコメントします。
 
 
この記事は「高齢化=経済成長に打撃(経済成長を阻害)」と決めつけていて、下記のように書かれています。
 
「かつてないペースの高齢化は、全地域で今後20年の経済成長に重大な弊害をもたらす」と報告書は指摘。全米産業審議会の統計を引き合いに、今後10年の世界経済成長は急速な高齢化の影響で伸び率が1ポイント近く縮小すると試算した。
高齢化が進めば、経済成長の原動力となる労働人口は減少し、世帯貯蓄が減って世界の投資の縮小が予想される。
 
引用した最後の文にある「世帯貯蓄が減って世界の投資の縮小が予想される」という解説が、完全にまちがっている。不況下では、「貯蓄過剰(貯蓄が大きすぎること)」が根本的な問題で、バーナンキ前FRB議長などがかなり前から「世界経済は貯蓄過剰の状況にある」と強調していました。
 
世界のマクロ経済のバランスとして、生産したモノ・サービスが売れないことが最大の問題ですから、高齢化で、貯蓄を取り崩して消費をしてくれる人口が増えるほうが、景気にはいいのです。
「高齢化」は、企業がこれにきちんと向きあえば、むしろ景気をよくするチャンスになり、経済成長に打撃を与えたりしません。この点を日本のデータから詳細に論じたのが、拙著『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』です。
 
L70jacket
 
長期的な経済成長につながるのはなぜかを説明するのは、ちょっとむずかしいのですが、CNN.co.jpのこの記事でも、「生産性」という言葉が出てきて、キーワードになります。……この話は、機会があれば、いずれご説明します。話が長くなるので、ブログで書くのはむずかしそうですが。
 
《著者コメント(4)終わり……次回に続きます》

2014年8月26日 (火)

吉本佳生『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』(日本経済新聞出版社、2014年8月20日刊)についての著者コメント(3)

大阪の「あべのハルカス」について、産経新聞がつぎのような記事を載せました。
 
 
近鉄百貨店が、旗艦店である「あべのハルカス」に入る本店の平成27年2月期の売上高目標を大幅に下方修正した。集客の目玉に据えた若い女性向け専門店街「ソラハ」の不振が大きな要因だ。同社は売り場の一部改装に乗り出すが、3月の全面開業から半年足らずでの軌道修正。近鉄本店の浮沈はハルカス全体の集客に大きな影響を及ぼすだけに、立て直しが急務だ。
 
しかし、あくまで「若い女性をいかに集客するか」に固執しているようで、だから、つぎのように書かれています。
 
近鉄百貨店の高松啓二社長は「雰囲気や音楽など、若い女性が好むような演出も不十分だった。来店客を呼び込む仕掛けが必要だ」と指摘。数千万円を投じ、9月中旬の完成をめどにソラハの改修に踏み切る。
 
また、衣料品だけでなく、食料品の売場のテコ入れを考えているようです。
 
地下の食料品売り場も、商品がより選びやすくなるように見直すことを検討している。
 
でも、拙著に書いたように、平均的な若い女性は「高い服」も「高い食料」も買わないと考えるべきです。他方で、平均的な消費行動でみて「高い服、高い食料」を買うのは、70歳以上の女性です。そして、記事のなかでは下記の記述もあります。
 
ターゲットにする20代を中心とした若い女性客の姿は少なく、むしろ一角にある甘味処でくつろぐ年配客が目立つ。
 
その年配客に、もっと働きかけるべきですよね。まさに、拙著を参考にしていただければと思いますが……。
《著者コメント(3)終わり……次回に続きます》

2014年8月22日 (金)

吉本佳生『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』(日本経済新聞出版社、2014年8月20日刊)についての著者コメント(2)

70歳以上世帯は女性が買い物を主導していることを、すでに説明しました。

そして、L70(70歳以上の女性)は肉などの食べ物と女性用の衣服をいちばん高く買います。さらに、L70の消費生活が豊かであることを示すデータがあります。『L70を狙え!』を執筆したあとで気がついたデータのひとつを、ここで示します。

 

誰かにいろいろなモノをプレゼントするなどのために使った「交際費」が、消費支出に占める割合を世帯主年齢階級別に計算した結果が、図Aのグラフです。「交際費のうちの食料」が食料全体への支出に占める割合も並べてあります。

 

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70歳以上世帯では、消費支出に占める交際費の割合が11.9%で、食料費に占める交際費(食料)の割合が12.9%で、かなり高いといえます(仕送りなどは別項目で、ここにはふくまれません)。どちらも1割を超えていて、1割以上をプレゼントしてしまうのだから、消費生活(とりわけ食生活)にはかなり余裕があると考えていいでしょう。2本の折線グラフはかなり重なっていて、食料への支出が示す特徴は、消費支出全体にも当てはまりやすいといえそうです。そんななかで、消費支出に占める交際費の割合も、食料費に占める交際費(食料)の割合も、70歳以上世帯が最も高いのですから、やはり、70歳以上世帯の消費生活はかなり豊かであると考えていいでしょう。

 

女性が消費を主導する70歳以上世帯は、自分たちがこだわりをもつモノ・サービスについては、高価格=高品質を好み、プレゼント用の買い物も多い。企業側からみて、利益率が高いビジネスをやりやすい優良顧客層です。

 

《著者コメント(2)終わり……次回に続きます》

2014年8月20日 (水)

広島市安佐北区の自宅で豪雨にあいましたが、無事です。/本日発売の『L70を狙え!』の宣伝用色紙について。

昨夜(8月19日の夜7時前)に広島の自宅に戻りました。今朝(20日早朝)から妻がオランダに出かけるためで、昨夜は息子の受験勉強で算数を教えて、夜寝たあとで、今朝の3時に目が覚めました。息子も寝られないようで、妻も起きてきました。稲光がずっと連続して明るく、雷の音もひどく、たいへんな豪雨でした。

 
テレビで被害が報道されている地区に入るところに住んでいて、妻が広島駅から新幹線に乗り、関空に向かう予定でしたので、朝5時前にクルマでどこかの駅まで送ろうと家を出ました。最寄りの「可部駅」まで歩いて10分以内で、雨も止んでいましたが、可部駅からのJRは「単線」で運休や遅れも起きやすいので、可部駅の横を抜けて、太田川にかかる大きな橋に入ったら、前のクルマがつかえていると気づきました。
 
引き返すかどうか悩みましたが、進みが遅くてJRに間に合うかどうか微妙で、クルマで別の駅に妻を降ろすことにして、川沿いで下側で細い(しかしJR沿い)の道を選ぶか、広くて上っている道を選ぶかで迷い、交差点のすぐ向こうではクルマが詰まっていて、立ち往生しているトラックもあったので、下の細い道に入ったところ、川から流れ込んだと思われる土砂などが道路を覆っていて、しばらくすると、50センチぐらい冠水していて、かつ、クルマが進まなくなりました。
そこがJRの駅の近くで、妻は降りると言ったのですが、線路も冠水していて、どうも運休だとわかりましたので、広島駅まで妻を送るか、あきらめて家に帰るかとなって、とにかくUターンしました。
 
かなり暗いなかで水は増え続けている感じで、エンジンが止まるとか、水中で流木や石などで進めなくなる恐怖と戦い、ゆっくり慎重に進んで、広い道との分岐点となる交差点に戻ると、立ち往生していたトラックがなくなっていましたので、広島駅に向かうことを選択。
ところが、どんどん上っている道なのに、今度は山からの土砂が流れ込んでいたため、2車線のうち1車線から1.5車線が川になっていて、太い流木、そこそこ大きな石がゴロゴロしていて、流木に当たったまま止まっている軽トラックもありました。これらを避けてなんとか進み、そこを抜けてからはスムースに広島駅に行けました。広島駅も原爆ドームのあるあたりも、そうした被害のあとはまったくありませんでした。
 
しかし、通るのに苦労した広い道の反対車線(山側)は、2箇所が通行止めになっていて、下の道は水没、JR線も一部水没で、途中で通った高速道路の広島ICは上下線ともに通行止め。私が家に戻るのがむずかしいとわかりました。
家を出る前から、息子にはイザというときの指示をしていて、歩いて数分のマンションに住む義母には妻がクルマのなかから電話していましたので、ゆっくりでも帰れればよく、高速道路の広島ICまでは行けますので、山陽道から中国道に抜けて、北から家に帰るかとも思いましたが、肝心の広島ICに入れません。
もっと山側・川側を通る東の迂回路を選ぶしかなく、さすがにこの状況でしたから山間の道が朝6時すぎから渋滞していましたが、なんとか家に戻りました。
 
ただ、夜も大雨の可能性があり、都市部との交通が遮断されるリスクはあります。スーパーもコンビニもたくさんある地区ですので、生活はできますし、息子は午前中にちゃんと塾に行きました。昼までサイレンが断続的に鳴り響き、家から遠くないところでは、お亡くなりになった方が何人もいらっしゃいます。復旧作業が続きますし、通行止めは土砂災害によるものですから、さらなる土砂災害が起きないように、今夜は晴れてくれるよう、とにかく祈っています。
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さて今日は、拙著『L70を狙え!』(日本経済新聞出版社)の出版日です。一昨日の夕方、出版社から「手書きの宣伝用色紙を書いて」との依頼があり、家に色紙を送ってくれるとのことでしたが、自分で色紙を探し、昨日の昼すぎまでに指定枚数より多めに書いて、東京の日本経済新聞出版社に送りました。今日、届いたそうです。
それが、これです。
 
L70pop
 
字が下手くそで申し訳ございません。これでも、指定サイズの色紙がハンズでもロフトでも見つからなかったために、別のものを切って、断面をシールで装飾し、時間制約のなかで指定枚数以上を書きましたので、必死に書きました。
 
どうぞよろしくお願いいたします。

2014年8月10日 (日)

吉本佳生『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』(日本経済新聞出版社、2014年8月20日刊)についての著者コメント(1)

L70jacketobi
昨年の秋に『これから誰に売れば儲かるのか 成長戦略の正しい考え方』(幻冬舎)を出しました。その後半で「シニア女性の消費市場」がこれから急成長することを示しました。
「シニア層の消費」に期待する本は何冊も出ていますが、私がみた本はどれもが「60代」をメインターゲットにしていて、どちらかといえば「男性」を重視している感じです。
しかし、シニア層の人口は「女性」のほうがずっと多く、これから明確に人口が増えるのは、「80歳以上」です。80歳以上では、男性の約2倍の女性がいて、その人口が急増します。日本全体の人口はどんどん減るなかで、シニア女性の人口はどんどん増える。だから、やがて「シニア女性」が日本の消費市場の主役になります。
 
8月20日発売の『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』(日本経済新聞出版社)では、サブタイトルにある「70歳以上の女性」に焦点を当てています。これを「L70」と呼び、他のどの年齢層の消費者よりも「お店や企業を儲けさせてくれる、ありがたい消費者」であることを、豊富なデータで示しています。
 
他に、50歳以上、60歳以上、65歳以上といったグループ分けも検討しましたが、それよりも70歳以上を選んだのは、60代(60歳代)よりも70歳以上のほうが生活が豊かだとわかったからです。また、70歳を超えたところで、家計の消費がはっきりと「女性主導」になるとわかったからです。
そこで、原則として50代と60代をふくめないことにして、70歳以上を選びました。
 
シニア女性向けにうまく販売して高い利益を稼いでいるお店のなかには、「80代こそが一番儲けさせてくれる顧客です」とおっしゃる方もいらっしゃいます。また、80歳以上という区切のほうが、人口増加の勢いは大きくなります。ですから、80歳以上というグループ分けも考えられるのですが、日本政府の多くのデータは、70歳以上を一括りにしていますし、民間のリサーチ会社は70歳以上を調査対象外にしていることが多いので、70歳以上という区切しか選択できませんでした。
しかし、60代と70歳以上の消費行動には明確な差がみられますから、70歳以上=L70というグループ分けには自信があります。
 
今回も大量のデータを調べて、整理して、いつものように私自身で図表の清書までやって、たくさんの図表を掲載しています。なるべくわかりやすく加工したつもりです。
一番おもしろいデータは、総務省の『家計調査』に基づくものです。年別では最新となる2013年の家計調査の結果は、今年2月に公表されました。これを細かく読みながら整理したのですが、私自身、作業中は驚きの連続でした。L70の消費生活が予想をはるかに超えて、すでにとても豊かだと気づかされました。
 
消費支出の水準だけでいえば、世帯主年齢で「29歳以下、30代、40代、50代、60代、70歳以上」の6つのグループのなかで、一番水準が低く、生活水準が低い世帯ほど高くなるとされる「エンゲル係数」は一番高い。総務省が発表時に「概況」をまとめてくれているのですが、このあたりのデータを強調しますから、それを素直に読むと、70歳以上世帯は生活水準が一番低いと思えてしまいます。
 
ところが、その家計調査のデータをきちんと読み込むと、魔法のような感じで順位が逆転し、70歳以上世帯こそが一番高い生活水準になっているとわかります。また、女性主導になっていることもわかります。
L70(70歳以上の女性)は、全年齢層のなかで一番高価格(=高品質)の食べ物を買います。一番高価格(=高品質)の服や靴を買います。……ただし、女性用の服と靴に限ります。ご亭主のズボンや靴については、じつは一番安いモノを買い、そうした節約で浮いたおカネで、自分の服や食べ物を高く買っているのです。
これは、他ならぬ家計調査のデータにはっきりと出ている事実で、私も本当に驚きました。
 
特任教授として毎週水曜に講義をしている関西大学・会計専門職大学院の大学院生たちや、周囲のいろいろな人たちに、ポイントとなるデータを示しながらこの話をすると、私が直接話をした相手は、みなさん、すぐに納得してくれました。
何人もの大学院生が「うちのおばあちゃんも、食べ物の品質にはすごくこだわっていて、高いモノを食べています」とか「おばあちゃんは高い服を着ています」と、家計調査のデータを裏づけることをいっていました。
 
《著者コメント(1)終わり……次回に続きます》
 
L70jacket
【次回以降の予告】
そして、L70の消費生活はこれからさらに豊かになると予想されます。これも、データの裏づけがあっての予想です。
そもそも、L70の消費は近年伸びていて、これに気づいて対応している企業もあります。
他方で、L70の消費生活の豊かさに気づかずに、高い利益率で稼ぐチャンスを逃している企業もたくさんあるようにみえます。
次回以降、これらの内容についてお話します。
また、本書のカバーイラストは、漫画家の「江口寿史先生」にお願いしました。本当に素敵なイラストです。こうした製作裏話のようなことも、入れられればと思っています。
ただ、次回以降の話の順番は、どうなるかわかりません(決めていません)。
今日は8月10日。8月中は、少しずつこの話の続きを書いていきたいと思います。
 
現時点で本書をネット予約できるところ(……お近くの書店でお買い求めいただければいいのですが、最初の配本は都市部の大型書店に集中しやすいので、そうした書店の近くにお住まいではない方には、著者としてお詫びします。)
 
 
 
 
 
 

2014年8月 6日 (水)

NHKが「ビッグデータ」について報じたニュースが、ひどすぎる!

久々の記事だから、おそらく読んでくれる人が少ないと承知しつつ、しかし、とにかく問題提起をしたいので、書かせていただく。

 
69年前に原爆投下があった8月6日、広島の家で式典を観ていた(大雨警報発令中で、学校に登校しなくなった息子に8時15分の黙祷をさせる必要があった)ので、そのままNHKをつけていたら、下記のニュースが流れた。短い時間のニュースでわざわざ取り上げていたわけだが、内容を聞いて、とにかく唖然とした。
 
商品の購入記録やカーナビゲーションの位置情報などの「ビッグデータ」を企業が利用することについて、半数近くの人が「期待より不安が大きい」と感じていることが、大手広告代理店などの調査で分かりました。
この調査は大手広告代理店の「博報堂」と「日立製作所」がことし6月、全国の20代から60代の男女にビッグデータの活用についてたずねたもので、およそ1000人から回答を得ました。
それによりますと、商品の購入記録やカーナビの位置情報などを企業が利用することについて、「期待より不安が大きい」と答えた人は48.8%で、去年より7.3ポイント増加しました。
また「プライバシーの侵害に不安を覚えることがある」との回答が88%に上り、その理由として「目的以外で利用されるおそれがある」や「利用を拒否できない」などが多くなっています。
とりわけ健康診断の結果や学力に関する情報の利用は「同意が条件」と答えた人が半数を占め、本人が特定される個人情報ほど慎重な利用を求める傾向がうかがえます。調査にあたった博報堂の森保之さんは「不安を解消するには、企業が今以上に情報管理を徹底するとともに、しっかり管理していることを外部に発信することが重要だ」と話しています。
 
この調査結果、明らかに「消費期限切れ」で、食品であれば「毒入り、危険」といっていいレベルのものだ。調査が6月で、そのあとの7月にベネッセの事件が発覚し、その被害の拡大状況がまだいまも少しずつ明らかになっている状況だから、食品であれば、廃棄して作り直すのが当然というレベルのものだ。
 
つまり、食品関係のお店や企業なら、即座に営業停止になるレベルの仕事を、NHKはおこなったことになる。コンビニやスーパーが、腐って異臭を放つ食品をそのまま販売したら、なにが起こるかを考えてみればいい。ベネッセの事件が大々的に報道され、いまもまだ注目度が高いことを考えれば、「6月の調査結果を報じることが、それほど悪いこととは思いませんでした」という言い訳は、このケースでは通じない。報道のド素人だと認めることになるからだ。
こういう報道は、広告代理店を通じてCMを流す企業を集め、企業からお金をもらっている放送局がやればいい。それでもなお、こういう報道をすれば、国民がマスメディアを信じなくなることを覚悟してやるべきだ。
 
たった1000人の回答での調査結果だから、NHK自体がいま調査し直して報じることもできただろう。6月の結果を報じるぐらいなら、8月初めに100人に調査した結果のほうがまだマシだっただろう。また、せめて、これは6月調査であって、ベネッセの事件を反映していないことを強調しながら報じるべきだった。
 
皮肉なことに、こうしたテレビ報道が、日本国民のビッグデータ活用への不安をさらに増大させる。最近のNHK(悪いのは、おそらく一部の部局だろう)は、このようにして「大企業に媚びる報道」が目立つのだが、これは「贔屓の引き倒し」パターンの報道といえる。まともに「媚びる能力」すらないというのは、残念なことだ。
 
NHKは、それでもまだ、日本のマスメディアのなかでは良識的な報道ができるテレビ局だと思う(個人的には、NHKに関わるとすごく大変だから、嫌われたほうがむしろありがたいが……)。経済報道に関わる人たちは、もっと勉強してほしいと願っている。

2014年6月 5日 (木)

6月14日(土)に名古屋でビットコインの講演会など、6・7月の講演のお知らせ

ひとつ前に書いたように、6月6日(金)には大阪の紀伊國屋書店・本町店でビットコインについての講演をします。これを書いている時点で、その講演まで24時間を切っています。

5月29日の東京(共著者トークイベント)、6月6日の大阪に続き、6月14日には名古屋でも「ビットコインについての講演会」をします。その他、6・7月の下旬の土曜日には、資産運用セミナーでも話をします(会場は大阪・名古屋)。
 
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6月14日(土)の講演会は、かつて勤務していた「南山大学・名古屋キャンパス」でおこないます。
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詳細はこちらにあります。→ 南山大学によるプレスリリース
 
会場:南山大学(名古屋キャンパス) R棟・1階 フラッテンホール(500 人収容)
日時:2014年6月14日(土) 10:00 〜 11:45
 
講演・第1部
「ビットコインは世界の通貨・金融を変えるか?
──天才数学者ニュートンが生きたイギリスと、江戸時代の日本を参考に考える」
 
講演・第2部(40分)
「ビットコイン投資 vs. NISAで株式投資
──日本の対外赤字と財政破綻に備える資産運用の考え方」
 
※東京・大阪のイベントは書店で開催のため、本を買っていただくことが参加条件でした。しかし、南山大学での講演会は、学生・一般向けで無料です。誰でもお越しください。
南山大学のブックセンターは紀伊國屋書店さんですので、講演会の会場で拙著と、南山大学経済学部の先生方のご著書などが販売され、私の本の購入者でご希望の方には、私がサインをさせていただきます。
じつは、隠れた目玉書籍は、私と南山大学経済学部の現在の学部長である阪本俊生教授の共著『禁欲と強欲 デフレ不況の考え方』で、当日は阪本教授もいらっしゃいますから、2人のサインが可能です。
 
2本立ての講演をするのは、この名古屋の講演会だけです。……明日の大阪でも似たような話をしますが、名古屋では質疑応答なしで講演だけをしますから、講演の時間が大阪と比べて50%増しになっています。
とはいえ、大阪は講談社と私がプレゼントを用意していて、参加者も名古屋よりずっと少ないので、相対的にプレゼント入手の可能性は高いはずです。また、大阪では質疑応答の時間もあります。
 
6月下旬と7月下旬は、ボーナスシーズンに合わせた資産運用セミナーを、ビジネスブレークスルー(BBT)大学の主催でおこないます。ここ数年、このセミナーの講師に招かれていて、どうやら評判がいいようです(銀行や証券会社のセミナーでは決して聴けない話をするからでしょうね)。
 
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どうぞよろしくお願いいたします。

2014年6月 3日 (火)

6月6日(金)に、大阪の「紀伊國屋書店・本町店」で『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』出版記念の講演会をおこないます。

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今週末の6月6日(金)に、大阪市内の「紀伊國屋書店・本町(最寄地下鉄駅:堺筋本町駅店)」で、『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』出版記念の講演会をおこないます。
今回は、共著者の西田さんはいらっしゃいません(Appleが新しいOSを発表してニュースになっていましたが、その会場で取材中ですので、日本にはいらっしゃいません)。私ひとりで講演をします。
 
演題は……
 
ビットコインは世界の通貨・金融を変えるか?
 ──天才数学者ニュートンが生きたイギリスと、江戸時代の大坂を参考に考える
 
ですが、ボーナスシーズンに入りますので、後半では、「資産運用対象としてのビットコイン」についても話をします。
 
日時:2014年6月6日(金) 19:00~
場所:紀伊國屋書店本町店西側イベントスペース
対象:5月22日発売の講談社ブルーバックス
   『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』
             ご購入のお客様 先着30名様
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先週は東京でイベントをおこないましたが、著者2人は、下記のTシャツを着ていました。大阪でも着ます。
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なお、出版後にバタバタしていたためですが、Webなどでの告知が数日前から始まったばかりで、おそらく来場者が少ないと予想されます。そこで、講談社がプレゼント用に、上記Tシャツを何枚かもってきてくれるそうです。
私も1枚しかもっていないので、私がほしいのですが、おそらく、質問をしてくれた人へのプレゼントにすると思います。東京では、私がつくった団扇をプレゼントしました。団扇よりTシャツのほうが高価ですが、より恥ずかしいとも思われますので、また団扇をつくって持参しようかとも考えていますが……。
 
どうぞよろしくお願いいたします。

2014年5月21日 (水)

「現代ビジネス」で3日連続で記事を掲載していただきます

講談社のウェブサイト「現代ビジネス」で、昨日の5月20日から3日連続で、吉本佳生・西田宗千佳著『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』(ブルーバックス)の刊行に関連したインタビュー記事を掲載していただきます。

初回はこれです。
正直なところ、もうネタなんてありませんという状況から絞り出した感じの記事になっています。このあと、東京・大阪・名古屋でイベントがありますから、そのあたりも重なりが大きくならないように配慮する必要があります。……大阪の講演の演題と、名古屋の講演(2本立て)の後半の演題は、ほぼ同じですが、内容はできるだけ変えます。
ニコニコ動画での中継があったり、映像を録画してのなんらかのかたちでの配信の可能性があったりで、どれか2つを両方チェックしてくださった方に、「なーんだ、まったく同じ話じゃないか!」と思われないためには、ウェブサイトでの記事もふくめて、そしてもちろん本そのものの内容もふくめて、「ここでしか話をしていない内容」が少しずつでもすべてのコンテンツになければダメだ、と考えながら、がんばっているつもりです。もっとも、大切な内容はできるだけ本に書きましたから、他で出てくる「ここにしかない話」は、それぞれちょっとしたネタでしかありません。
講演会などのイベント情報は、あと少し調整をしてから、きちんと告知させていただきます。東京・大阪・名古屋ではお目にかかる機会があるかもしれません。また、東京のイベントは、ニコニコ動画での生中継があります。

2014年5月20日 (火)

『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』紙版・電子版同時刊行になりました

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講談社ブルーバックス『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』が本日、5月20日に刊行になりました。まったく同じ日にAmazonなどでは電子版も刊行になっています。Amazonの紙版の発行日は明日5月21日になっていて、実際に、電子のほうが早く入手できたという状況です。私自身、今日の0時すぎに電子版をAmazonでダウンロードしました。
西田宗千佳さんとの共著で、さっそく、西田さんがハフィントン・ポストに寄稿していますので、引用します。
5月29日には、丸善・丸の内本店でのトークイベントがニコニコ動画で生中継されます。
どうぞよろしくお願いいたします。

2014年5月 8日 (木)

『ニュースと円相場で学ぶ経済学』と『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』の出版について

今朝、2014年5月8日の「日本経済新聞」に、5月刊行の日経ビジネス人文庫の広告が出ているはずで(いろいろあって、私はこのあと確認する予定で申し訳ございませんが)、あわててブログでも告知をしようとしています。

すでに5月2日に、5月刊行の日経ビジネス人文庫の1冊として、
拙著『ニュースと円相場で学ぶ経済学』が出版になっていました。
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1月に『スマホは……』の話を書いたときに申し上げていたものです。
 
2000年に日本評論社から出版していただいた本の全面改訂版です(タイトルも少し変えていますが、前著をお読みいただいた方には、この新しいタイトルでも、その本の改訂版だとおわかりいただける程度の変更です)。2014年から「国際収支統計」が全面的に変更されており、その最新統計の解説をしています。ユーロ危機、日本の貿易収支の赤字化、金融政策の大幅な変化、リーマンショックなどに対応して、かなり書き換えました。
 
なお、本書の内容に関連した取材を、たまたま引き受けて(国際収支統計が大幅に変更されたための取材のご依頼でしたが)、記事にまとめていただいたものが下記です。
 
 
上記の本については、まだ、親しい方への献本とかも全然できていないのですが、5月にはもう1冊出版になります。つい昨日の深夜まで、その最終作業をしていました。今朝起きて、私がやるべき校正作業がすべて終わったと知りました。
Amazonなどでは、すでに予約可能です。
 
西田宗千佳さんとの共著で、『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』というタイトルです。
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西田宗千佳さんがすでに告知してくださっていて、おかげで、電子版の予約がすでにたくさん入っているようです。ネットでの情報発信をサボりまくっている私とちがって、さすがに西田さんは影響力があって、すごいです。
 
 
西田さんの解説を読み、私もビットコインの情報技術面のしくみがよくわかりましたので、さっそく、昨日の関西大学会計専門職大学院の1年生向けの講義で、少しだけ解説をしました。「公開鍵暗号」といった言葉さえ、一般的にはほとんど知られていないことを実感しました。そのもっと前のところからきちんと解説されています。
 
画像をみていただくとおわかりになると思いますが、講談社ブルーバックスです。……ブルーバックス編集部にこの企画の検討をお願いしたときには、まだマウントゴックスの破綻が起きておらず、企画が通ったあとにマウントゴックスが破綻しました。
「これで企画はダメになったか?」と思ったところ、逆に知名度が上がったことで、急いで出そうという話になり、5月に出していただけることになりました。
 
しかも、電子書籍と紙の本が同時に出ます。
 
Amazonでは、紙の本の出版予定日が2014年5月21日になっていて、これはブルーバックスの正式な発売日(5月20日)の翌日です。
ところが、Amazonでの電子版の出版予定日は5月20日です。つまり、ほんの少しの差ですが、電子版の方が先に出ることになっています。
ブルーバックスの電子版は、これまでリフローになっていないものが多かったとうかがっておりますが、本書はリフローで、図表はいつものように私が作成していますので、できるだけ、スマートフォンとかでも読みやすいように気をつけたつもりです。
 
西田宗千佳さんと2人でのイベントもあります。丸善・丸の内本店のホームページにすでに告知があります。
 
場所:丸善 丸の内本店(東京駅近く)
開催日時:2014年05月29日(木)19:00 ~
定員100名様、要整理券(電話予約可)
参加方法
○丸善・丸の内本店和書売場各階カウンターにて、対象書籍をご購入の先着100名様に整理券を配布いたします。
○発売前はご予約にて承り、書籍ご購入時に整理券をお渡しいたします。
○整理券がなくなり次第、配布終了といたします。
対象書籍
『暗号が通貨(カネ)になる「ビットコイン」のからくり』(吉本佳生著 西田宗千佳著/講談社刊/税込972円)
 
なお、大阪でもイベントを計画中です。
 
名古屋では、かつて勤務した南山大学の講演会にお招きいただくかたちで、こちらは私ひとりだけですが、その代わりに2本立てでお話をする予定です。通貨としてのビットコインの話と、資産運用対象としてのビットコインとNISAを活用しての株式投資の比較との、2本立ての予定です。
 
大阪、名古屋などのイベントについては、詳細がきちんと決まってから、またご説明します。

2014年1月16日 (木)

『スマホは人気で買うな!』を書くことになった経緯といま書いている本のこと

私の新刊『スマホは人気で買うな! 経済学思考トレーニング』(日経プレミアシリーズ)は、冒頭の数ページをお読みいただくとわかることですが、当初、『戦略思考トレーニング』(日経文庫)の経済学版としてご依頼があったものです。実際のところ、原稿を書き上げ、校正作業に入ったところでは、まだ、日経文庫で『経済学思考トレーニング』として出版の予定でした。原稿は2013年8月末にはほぼ書き終えていて、まだiPhone 5s・5cは発売されていませんでした。

そのあと、校正作業もかなり進んでいたなかで、日本経済新聞出版社から「日経プレミアシリーズでの出版に切り替え、タイトルも変更したい」とのご提案があり、新しいタイトル案をご相談するなかで、タイトルに使えそうなクイズがなかなかみつからないから、「スマホを題材にしたクイズを追加してください」ということになり、スマホに関するクイズとコラムなどを書き足して、完成させました。
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執筆開始時点にさかのぼってお話すると、本格的に原稿を書く前にサンプルのクイズをいくつかつくり、日本経済新聞出版社とご相談しました。その前に『戦略思考トレーニング』を読ませていただいたのですが、正直、ほとんど正解がわからない問題の連続で、サンプルをお渡ししたとき、「経済学の勉強をしてもらう本で、これと同じ難易度にすると、おそらく読み通してもらえないので、もっと正解しやすいクイズにします」と申し上げ、ご了承いただきました。
最初は「裁定」のクイズをたくさん入れていましたが、経済現象ではない題材を中心にしていたため、「経済学っぽくない」とのことで、ほとんど削りました。『戦略思考トレーニング』のシリーズは、ページ数が決まっていて、問題数も51問がふつうなのですが、私の場合、ページ数などは守るけれども、問題数はもっと増やしたいとお願いし、また、余分につくって一定数を削除するかたちで選ぶというやり方を認めていただきました。各章で数問ずつ削ってもよかったのですが、かなり多めに作問した(解説も書いていた)ために、裁定の章をほぼ丸ごと削ったうえで、さらに他の章からもあれこれ削って、最後に、スマホに関連した部分を加えました。
★★★★★
ところで、本書の原稿は、別の執筆依頼のご相談にうかがったとき、ついでにご相談したものでした。
もともと、10年以上前に出した拙著『ニュースと円相場から学ぶ使える経済学入門』(日本評論社、2000年)の文庫化のご提案をいただき、そのご相談にうかがった際に、「ところで『経済学思考トレーニング』というのは書けませんか?」というお話も出てきたという経緯があります。
そんなわけで、いま急いで作業しているのは、その文庫化のほうです。マクロ経済も、国際金融も、大幅に変わっていますから、もちろん、全面改定になります。そのなかで、後半部分(ページ数でいえば付録的な部分)のクイズを削除し、新しい内容を書き足すという方針は、最初から決まっています。
それで、削ってしまうクイズ部分について、「これはこれで『経済学思考トレーニング』という企画に使えませんか?」という話になり、先にそちらの原稿を書いたということです。そんな経緯でしたから、最初は、ミクロもマクロもふくめた問題を想定していました。このご相談のときには、解説で図表を使えないという制約を知らなかったからでした。
ところが、解説では図表は使えないということを伝えられ、そこで、マクロの問題はあきらめて、ミクロを中心にしました。おそらく、最初から「『戦略思考トレーニング』のシリーズでは、解説で図表は使えません」と知っていれば、執筆をお断りしたはずで(このことはあとで日本経済新聞出版社にも正直にお話ししましたが)、『スマホは人気で買うな!』は執筆しなかったはずです。
本当に、ちょっとした経緯が、あとで大きなちがいになると、改めて実感しました。

2014年1月14日 (火)

経済学思考トレーニングの題材をひとつ......新刊『スマホは人気で買うな! 経済学思考トレーニング』日経プレミアシリーズも発売中

CNN.co.jpの記事から。

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(2014.01.12 Sun posted at 15:14 JST)
(CNN) 米東南部バージニア州の地方裁判所は12日までに、女性が2010年にのみの市で「7ドル」(約728円)で購入したとするフランス印象派の画家ピエールーオギュスト・ルノワールの作品を、米メリーランド州ボルティモアの美術館への返還を命じる判決を下した。
約14センチ、約23センチ大の絵はルノワールが愛人のために1879年に描いたとされるセーヌ河畔の風景画。評価額は7万5000ドル~10万ドル(約780万~1040万円)とされる。
絵はその後、パリのギャラリーに買い取られ、1926年にはルノワール作品の収集家が購入していた。37年に収集家の前妻がボルティモア美術館に貸し出していたが、51年に盗まれる被害を受けた。
約60年後の2010年、バージニア州居住の女性がウェストバージニア州で催されたフリーマーケットで変哲もない箱が気に入って7ドルで購入。この中に、人形やプラスチック製の牛と一緒に絵が入っているのを発見していた。
女性は同州アレクサンドリアの競売企業ポトマック社に持ち込み、絵の鑑定を依頼。同社は偽物ではないと判断したが、首都ワシントンの国立美術館やルノワール作品の専門家などがさらに調べ、本物と判明した。
ボルティモア美術館から盗まれた後の約60年間、この絵がどこにあったのかなどは不明。同美術館の幹部は12年にCNNの取材に応じ、「人生に紆余(うよ)曲折はつきもの。絵の持ち主が変わっていった背景を推測するのは大変難しい」とも語っていた。
女性は、バージニア州の裁判所の返還命令を受けたものの、絵の正当な所有権は自らにあるとの気持ちを抱いている。
一方、ボルティモア美術館は絵の返還を望んでいる。
絵の所有論議に決着がつくまで、米連邦捜査局(FBI)が絵を保管することになった。
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この話は、法律のクイズとして考えるとおもしろいのは当然として、経済学思考のクイズとしてもおもしろいでしょう。経済学者は、当然ながら、価格をつけておカネで決着をさせるのが好きです。では、経済学者からのクイズ。
「この絵の対価を、美術館がいまの持ち主(記事のなかの「女性」)に支払うとしたら、いくらか?」
もちろん、正解はひとつではないでしょう。私自身、ゆっくり考えないとわからないと思っているので、時間があるときにしっかり考えるつもりです。
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ところで、拙著『スマホは人気で買うな! 経済学思考トレーニング』日経プレミアシリーズが、数日前から発売になっています。
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しかも、すでに増刷が決定しています。ご購入いただいたみなさま、本当にありがとうございます。
68問のクイズを解くことで、経済学思考トレーニングができるという本です。昨年のベストセラー『戦略思考トレーニング』(日経文庫)の経済学版として企画されたのですが、日経プレミアシリーズに昇格(?)しての発売となりました。冒頭の問題は、南山大学経済学部で最後に教えたゼミ生の卒論からネタをとっていて、先週、彼に久しぶりに会って、見本を渡しました。
いま教えている関西大学会計専門職大学院の講義でのネタもいくつか入れています。
明日、日本経済新聞に広告が出る予定だとうかがっています。
内容的に、いろいろと批判されるところもありそうですが、本当に際どいネタは、編集サイドの要望でカットされています。
また、過去の拙著からネタをとっている問題もあり、内容の確認になるともいえますが、ネタが重複しているとのお叱りもあるでしょう。経済学の初心者でもバランスよく経済学思考を身につけられるようにとの意図がまずあり、どうしても同じネタを使わざるをえなかったものについては、ご容赦いただければさいわいです。『戦略思考トレーニング』のシリーズは、問題数が51問と決まっていますので、68問を載せた本書は、過去の拙著とのネタの重複があっても、少しお得なはずだと思うのですが……。
どうぞよろしくお願いいたします。

2013年10月13日 (日)

『これから誰に売れば儲かるのか』(幻冬舎)でのデータ分析の裏話

10月9日ごろから全国発売になった拙著『これから誰に売れば儲かるのか』(幻冬舎)について、10月12日の日本経済新聞(朝刊)に広告を出していただいたおかげで、ネット書店では好調な販売となっています。みなさまありがとうございます。

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多くの大型書店で目立つところに並べていただいたこともあり、広告が出る前日から、丸善・ジュンク堂・文教堂と提携する「honto」の「マーケティング」分野のランキングで「1位」となっており、これに加えて、広告が出た直後には、「Amazon」の「マーケティング・セールス」分野のランキングで「1位」となりました。本当に感謝しております。
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本書のなかでは、10年後あるいは20年後までの日本の消費市場を考えるためのデータをたくさん提示しています。いちばんのポイントとなるデータは「女性の年齢別の学歴」です。なぜ、学歴なのか、なぜ、女性なのかは、ぜひ本書をお読みください。少しは紹介したいところですが、きちんと手順を踏んでデータを示さないと、納得してもらえない危険性が高いと感じています。
このデータを得るのに、数日苦労しました。なぜなら、学歴についての公的なデータはほとんどが文部科学省が公表している調査のなかにあるはずで、そう思って片っ端から調べても、ほしいデータはみつからず、本当に困ってしまいました。
あきらめかけて、しかし、どんなことをしてもこのデータがほしいと思っていたとき、ふと、すでに集めていたデータを使って調べられると気づきました。文部科学省とは別の省庁のデータだったので、盲点になっていたのでした。データ分析では、「先入観」が失敗につながるという典型例です。みなさまもお気をつけください。

2013年10月 3日 (木)

明日から販売される予定の新刊『データ分析ってこうやるんだ!実況講義』の出版記念の無料セミナーを東京でおこないます

吉本佳生著『データ分析ってこうやるんだ!実況講義 身近な統計数字の読み方・使い方』(ダイヤモンド社、1,600円+税)は、奥付の発売日が本日(2013年10月3日)で、実際には本日から出荷されますので、東京都内の大きな書店では本日の夕方から並ぶかもしれませんが、全国の書店には明日か明後日から並ぶと思われます。

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じつは、ダイヤモンド社のWebサイトの「ダイヤモンドオンライン」で、いくつかの章の内容をダイジェストで無料公開しています。私が自作した動画も公開していて、さらに来週、2013年10月10日(木)の夜、東京のダイヤモンド社で無料セミナーをおこないます。くわしくは下記URLでダイヤモンド社の告知をご覧ください。
ダイヤモンドオンラインでの一部のダイジェスト版公開は、下記のようになっています。
動画は下記にあります。
来週、本書を執筆しているときに思いついて書いた別の単行本、吉本佳生著『これから誰に売れば儲かるのか 成長戦略の正しい考え方』(幻冬舎、1,300円+税)も出版になります。
これについては、また発売日にもう少し説明させていただきます。

2013年7月 7日 (日)

アベノミクスをどう評価するか?

参議院選挙期間に入り、マスメディアがアベノミクスをどう評価するかを論じています。
◆◇賃金
ポイントのひとつは「賃金」で、これについては、4月に出版した拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)で論じていました。景気を考えると、「賃金」そのものも大切ですが、「賃金格差」のほうが大切です。
ブログでご報告していませんでしたが、拙著については、複数の新聞書評も出ていました。
賃金格差のポイントは、「男・女格差」「大企業・中小企業格差」「正規・非正規格差」「若者・中高年格差」の4つだと、私は拙著で指摘していますが、そのうちの男女格差については、私が「日経WOMAN」という雑誌に書いたコラムのなかで、簡単に指摘したものが、日本経済新聞のサイトに出ています。
ネット上での書評についても、たくさん書いていただきましたが、影響が大きかったと思われるものを3つ挙げます。
◆◇成長戦略
ポイントのもうひとつは「成長戦略」です。
これについては、いま本の原稿を書いています。そのうちのわかりやすい部分を簡単に指摘したものを、これも「日経WOMAN」のコラムに書きましたので、紹介させていただきます。
ではなにをすべきか、ひとつには、製造業よりサービス業に注目するべきだと思います。これは拙著のなかで書きました。
もうひとつは、自然に成長する市場に注目するべきだと思いますが、この点は、いま書いている本のなかでデータを示します。しばらくお待ちいただければさいわいです。

2013年6月 6日 (木)

センター試験を廃止して、代わりの試験を複数回やる案を検討中らしいが……

報道によると、「センター試験の代わりの試験を年複数回」という話が出ているようです。
やめてくれ〜!

第一に、その複数回の試験レベルをピッタリ同じにはできない。す

べてを本気で受けないと、いけなくなるだけ。
年複数回やるなら、すべて高校2年までの範囲でやるとかでないと、相当に変なことが起きやすくなる。でも、それなら高校3年生に教える内容が軽視されてしまうから、試験範囲は回によって異なるだろう。

それなら、範囲が狭い初回にピークをもっていって、高得点を狙うべき(これを防ぐには、前の回ほど試験レベルを高くすればいいが、こういう工夫をする勇気が文科省にあるかどうか)。
結局、高校1、2年からの受験勉強がきつくなる。塾に通って、高校1年のうちに高校2年までの内容を勉強し、初回試験に備えるとか。

おそらく、推薦入試に逃げる学生が増え、やたらに受験勉強をさせられる生徒と、推薦狙いにウエイトを置く生徒に、二極化すると、私は予想します。
そして、初回にピークをもっていって受けても、つぎの試験がたまたま簡単な可能性があるから、そのあとも本気で受けるしかない。

受験産業が儲かる一方で、貧乏な家の子供はますます不利になる。
本人が優秀で親がリッチな生徒が失敗して低レベルな大学に行く可能性は低くなるから、偏差値の高い大学にとっては有利。でも、子供にとっては、受験地獄が強化されるだけの気がします。

あいかわらず、国民の利益でなく、教育産業の利益が反映されやすい意思決定をしていると感じます。……安倍政権の問題というより、日本という国ではいつも起きること。提案している人たちに悪意はないと思うだけに、余計に残念です。

2013年5月18日 (土)

日本のマスメディアは、大学生の就活結果のデータを読むときに「就職率」に気をとられすぎている

昨日、文部科学省と厚生労働省が共同でおこなっている「大学,短期大学,高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」のデータの公表があり、さっそく、マスメディアが報道で取り上げていました。
下記に引用したのは、その一例。
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 今春卒業した大学生の就職率は4月1日現在で、前年同期比0.3ポイント増の93.9%と、過去最低だった一昨年の91.0%から2年連続で上昇したことが17日、文部科学省と厚生労働省の調査で分かった。このうち女子の就職率は94.7%と前年同期より2.1ポイント上がり、93.2%と1.3ポイント下がった男子を5年ぶりに上回った。
 両省は大学とハローワークが連携した就職支援が進み、中小企業を働き場所に選ぶ大卒者が増えたと分析。男女の逆転は「女子の採用が多い医療や介護分野の求人が伸び、男子の就職が多い製造業の求人減が影響した」とみている。
 大学生の就職率は1997年の調査開始以降で6番目に高い水準。女子は就職希望率でみても高く、79.7%で過去最高を記録。働く意欲の高まりを示したほか、短大卒の女子の就職率も過去最高だった。
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さすが日本経済新聞といいたい点がひとつあるが、全体的には、公表されたデータをきちんと読んで書いた記事とはいえない。評価したい部分は、「就職希望率」にも言及しているところだが、しかし少しだけ。
そもそも、この調査は、就職率を読んでもほとんど意味がない。属性別での就職希望率のバラツキが大きく、そして、時系列データをみると、内定をもらえなかったことで就職希望者から自主的に外れる学生が多いことがはっきりと読み取れるので、就活の成果をみるには、就職希望率のほうに注目する必要がある調査となっている。だから、就職希望率に少しでも言及した日本経済新聞を褒めたのだが、及第点の記事とはとうていいえない。
この調査は、同じ年度の卒業予定学生について、10月、12月、翌2月、4月(卒業直後)と4回の調査をしていて、そのすべてのデータをつなげて読むべきものだ。ネットで簡単に調べられる。
また、過去の年度の調査もよく読むと、そもそも、女子学生の就職希望率は男子学生に比べて明らかに高い。だから、表面上の就職率では、今回、男女逆転が起きたようにみえているが、前年度も、女子学生のほうが実態としての就職率は高かった(これは長期傾向として続いている現象)とみるべき。

2013年5月10日 (金)

もう一度いう、ビッグデータ時代といわれるのに、日本のマスメディアの報道は本当にレベルが低い!

これが小学生の書いた記事であったとしても、学校の先生や親からウソと手抜きを怒られるだろうという記事を、先ほどみつけました。短い記事なのに、ここまでデタラメな内容が盛り込めることに、感心しました。
読売新聞のサイト、YOMIURI ONLINEに掲載された記事を下記に引用します。
 財務省が10日発表した2012年度の国際収支によると、海外とのモノやサービスなどの取引を示す経常収支は、前年比43・6%減の4兆2931億円の黒字だった。
 比較可能な1985年度以降では、湾岸戦争直前で中東の緊張が高まった90年の黒字額(5兆5778億円)を下回り、これまでの最少となった。
(2013年5月10日09時00分  読売新聞)
なにが問題かを指摘しようとすると、けっこうたいへんですが、だからこそ本当に悪質な記事です。
日本の国際収支統計のうち、経常収支と呼ばれるものの数字について報じています。それで、どうしても「黒字がこれまでで最少」と結論づけるために、お粗末な捏造をおこなっています。しかも、この短い記事のなかでの論理が途中で破綻していることをごまかすために、とんでもなく姑息なことをしています。そこまでして、このデタラメな記事を載せるという行為は、レストランが調理に失敗して食べると健康を害するレベルになってしまった料理を、客に出してしまうようなことで、本当にひどい。
先に事実を示すと、日本の経常収支は戦後の高度経済成長期には、何度も「赤字」になっていました(マイナスは、どんなプラスの数字より小さい!)。この記事にある数字より小さな黒字だった年も過去にたくさんあります。つまり、この記事にある「最少」は、まったくのウソです。
ではなぜ、このデータを最少と決めつける詐欺的報道が可能になっているのかというと、1985年度以降じゃないと比較できないからという理屈のようです。これもウソ。経常収支はずっと昔から公表されていて、たしかに大幅な統計変更があったものの、それでも経常収支の値の比較なら、もっと昔とでもできます。しかも、大幅な統計変更の時期を境にするのなら、1985年度や、この記事で以前に最少を記録したとされた1990年度も、比較不可能とみるべきです。そして、細かな統計の取り方の変更なら、毎年のようにあれこれおこなわれています。
さて、驚くべきことに、たった2文のこの短い記事のほとんどが不適切な内容で埋めつくされており、日本国民をよほどバカだとみなしていなければ、こんな記事は書けないだろうと思えるほど、とにかくひどいといえます。
第1に、見出しに「最少」とつけるのはひどい。そもそも最少でないものを、特殊なデータの取り方をして無理に最少に仕立てたもので、それなのに、この見出しは、騙そうとする悪意がありすぎます。
第2に、これはまちがいではないのですが、記事の最初が「財務省」となっていること。日本銀行と財務省が協力して集計・公表している統計なのですが、ここで財務省とだけ書いているのは、結局、この記事は財務省の意向に配慮して書いた(おそらく、財務官僚にこの内容を教えてもらって書いた)ということだと、私は感じました。いずれにしてもまともな記者なら、財務省とだけ書くのではなく、日本銀行の名も挙げるでしょう。
第3に、細かくいえば、データとして「国際収支」という収支はなく、国際収支統計とか国際収支表というべきです。
第4に、経常収支の黒字の中身を考えれば、この記事にある「海外との……」という経常収支の定義は、いちばん大切な所得収支(経常収支にふくまれるもののひとつ)のことを省略していて、不適切です。
第5に、これも明確なまちがいではありませんが、記事全体として、年度をみているのか、暦年をみているのかをごまかそうという感じがあり(それはあとで述べる理由があるからですが)、そのあたり、もし読者を混乱させるつもりがないのなら、「前年比」は「前年度に比べて」などとして、年度の話であることをわかりやすくするほうがよかったといえます。
第6に、経常収支の黒字がどんな意味をもつかを書いていない。ちょうど、一昨日、関西大学会計専門職大学院の講義で話したことですが、じつは、国際収支統計の黒字・赤字は、企業会計での黒字・赤字とは異なるものと理解するべきです。国際収支統計は複式簿記の方式で作成されていますが、貸方と借方が逆になっていて、つまり、プラス・マイナスが逆なので、国際収支統計での黒字・赤字をふつうの感覚で解釈すると、完全に誤解してしまうことになります。だから、経常収支の黒字の大小を論じたいのなら、せめて、経常収支の黒字の意味を少しでも書くべきです。つぎのさらにデタラメな文を載せるぐらいなら、それはできたはずです。
第7に、すでに述べたように、1985年度からが比較可能というのはデタラメで、厳密にいえば、1985年度や1990年度との比較にも問題があり、とりわけ、この2つめの文に書かれた内容を考えると、あきれるしかないほど悪質な期間選択です。1990年度の経常収支の黒字が小さくなった理由として湾岸戦争という言葉が出てきますが、それに関する項目は、当時の国際収支統計では「移転収支」と呼ばれていたもので、いまはこれが「経常移転収支」となっていて、この変更時に、一部の内容は経常収支の外の収支に移されています。だから、比較可能性を考えて期間を選び、そのうえでこんな説明をするのなら、1990年度とは比較できるけど、石油ショックの時期や高度経済成長期とは比較できないというのは、あきれるほどデタラメなものです。
第8に、データとしては1990年度の経常収支を比較対象としているはずなのに、文では「90年」として、ここでは年度としていません。これを幼稚園レベルというと、おそらく、まじめな幼稚園児が怒るでしょう。「稚拙な詐欺師のレベル」というべきでしょう。90年度と比べているのに、なぜ「度」をとったのか?
おそらく、データをまったく調べていないのでしょう。ネット検索で国際収支統計というキーワードを入れて検索し、日本銀行のホームページで国際収支統計のデータをダウンロードするまでにかかる時間は、不真面目な大学生がやっても、おそらく10分程度で十分で、どんなに迷っても、30分以内にはデータの確認ができるでしょう。それをやらずに、適当な記事を書いているのに、そのなかで捏造を意図しているから、こんなに稚拙な記事になるのです。
記事には「湾岸戦争直前で」とありますが、これは歴史をねじ曲げた表現で、よくまあ、こんなデタラメな記事がチェックを通ったものだと思います。……もちろん、デタラメだとわかっていて、だから、それがバレにくいようにやった小細工が稚拙だったのです。90年度なら(実際に、この記事が扱っているのは90年度でのデータで)、1991年1〜3月をふくみますから、湾岸戦争が実際にあった年度となり、「直前で」はおかしい。しかし、1990年12月までは直前ということでもよさそうだという話にもなりません。なぜなら、90年度の経常収支の黒字が小さくなった理由のひとつは、91年3月に、湾岸戦争への協力のために日本政府が巨額の支出をしたからです。これが90年度の経常収支をみるときの重要ポイントで、湾岸戦争が実際におこなわれたからの現象で、だから、記事に小細工をして、ここだけ「年度」を「年」にして、「湾岸戦争直前」としているのは、本当にデタラメなのです。
しかも、この稚拙な捏造は、本来、やらなくてもいい捏造です。事実のままに書いたほうが、90年度の経常収支の黒字が小さかったのには、例外的な事情もあったからだと強調できて、2012年度はそれより少ない黒字になったと説明するほうが、本来の意図とは合っていたはずです。もちろん、もっと古くと比べれば、最少というのがデタラメなのですが……。
いずれにしても、あまりに稚拙なかたちで歴史をねじ曲げ、データをねじ曲げ、期間をねじ曲げ、事実関係を無視した記事を書いてまで、財務省に媚びて、日本国民をバカにして騙すのなら、せめて報じているデータそのものは確認したほうがいいですよ、日本国民の多くは国際収支統計をよく理解していないかもしれませんが、ネット上でちょっと調べれば、この記事のデタラメさはすぐにバレますよ、いまはビッグデータ時代と騒がれているのだから、データの扱いには気をつけたほうがいいですよ、と申し上げておきます。
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(追記)
これを書いてからヤフーをみたら、上記で取り上げた読売新聞の記事がトップページで紹介されていて、しかも、見出しに「過去最少」とある。「最少」だけだったのが、「過去最少」になったわけだが、デタラメな情報がよりいっそうのデタラメになったうえで拡散するという典型例。ヤフーによるこの改竄に基づくなら、日本という国は1985年に設立されたことになる(ヤフーは、北方領土は過去に日本の領土だったことなどない、という見解なのかもしれない……1984年以前には、いまの日本は存在しなかったという見解のようなので……)。私はそれ以前の1963年生まれなので、私の母国はすでに滅んだということだろうか? これらのマスメディアのひどさをみていると、実態としては滅びつつある気もしないでもないが……本当に嫌だ。

2013年5月 7日 (火)

新しく、拙著『日本の景気は賃金が決める』の書評をネット上のノンフィクション・書評サイトに載せていただきました

GW前半は、MRIインターナショナルのMARS投資事件の取材対応に追われ、実質単身赴任状態の父親(私)との約束を楽しみにしていた息子(小学生)に、あれこれ迷惑をかけたうえに、家族でカフェに行ったときにもキツイこと(子供としては当然の素直な意見)をいわれましたので、GW後半は子供につき合うことに徹していました。

それで、今日からふつうの生活に戻るべく、まずは広島から大阪に移動したのですが、新幹線を降りて早めの昼食をとっていたら(その最中に、懲りもせず、超有名メディアの関係者にMRIインターナショナルのMARS投資事件絡みのお願いメールを書いていたのですが……)、うれしい情報提供がありました(講談社現代新書の担当編集者さんからの情報提供です)。インターネット上で、下記の書評を掲載していただいたとのことでした。
それ以前の、小飼弾さんの書評橘玲さんの書評もそうですが、今回も、本当に私の本の書評だろうかと思ってしまうほど、過分なお褒めのお言葉をいただいていて、このあと本を書くのがたいへんだと、すごくプレッシャーがかかるほどの内容です。
上記での評者のおっしゃる通りで、経済書は、どうしてもポジショントークがふくまれやすいといえます。私は、講談社現代新書での前著『日本経済の奇妙な常識』のなかで、この件について書いています。学部のゼミの指導教授だった松永嘉夫名古屋市立大学名誉教授から、将来、国際経済や国際金融などの講義を教えたり、コメントをしたり、本書いたりするときに、外貨投資などをしてポジションをもっていると、どうしても自分のポジションに有利なように考えてしまうから、外貨投資などをするな、といわれたという話です。
この話にはオチがあって、私が実際に大学教員になったあと、松永先生との雑談のなかで「昔、先生にいわれたことを守って、外貨投資はやりません」と申し上げたら、「オレ、そんなことをいったか? まったく記憶にないな」といわれました。指導段階では厳しく心構えを説いたものの、出来の悪い弟子が大学教員に採用されたあとでは、うれしくて、そんな話はもう忘れてしまったのだと思います。豪快にみえて、とても繊細で弟子に優しい松永先生らしい態度でした。
ただ、出版ビジネスとしてみると、今回の拙著は、ビジネス書の想定読者層にはウケが悪いことを書いた本だといえます。それも承知で書評で取り上げていただいたことに、心から感謝いたします。
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ところで、やはりMRIインターナショナルのMARS投資事件についても少し書かせていただくと、バッタリ報道されなくなった感じです。ただ、報道の内容と被害の実状が完全にズレていた気がしますので、一度、報道が止まったことにも、少しはいい面があったのではないかと感じています。まちがった方向での報道がエスカレートするよりは、まだマシだったという意味です。もちろん、このあと、正しい方向での報道があることが望ましいので、ここからは被害対策弁護団の弁護士にがんばってもらいましょう。
私も、できるだけの努力はしますが、弁護士資格をもっているわけではありませんから、私には被害救済の手助けはできないことを、改めて申し上げておきます。私の目的は、他の投資被害、金融商品被害の予防であり、そのための機会として、MRIインターナショナルのMARS投資事件を取り上げています。同じ努力を、MRIインターナショナルのMARS投資については、2007年にすでにおこなっていますので、今度は、他のまだ表面化していない投資詐欺の被害者を減らすために、私はこのブログで情報発信をしています。ご理解のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
なお、具体的に、どんな投資被害や金融商品被害を心配しているのかを知りたい方は、拙著『生活経済トレーニング どちらがトクか選べ!』(PHP研究所、2012年)をお読みください。

2013年5月 4日 (土)

ビッグデータ時代と騒がれる一方で、日本のマスメディアのデータ読解能力はこんなに低レベル

数日前、テレビ局(TBS)のニュース報道のひとつが、ヤフーのトップページで紹介されていたので、読んでみたら、あまりにひどく、もしかすると、TBSがどこかの金融機関と組んで新たな悪徳商法を始めたのかと、つい疑いたくなるような内容でした。おそらく、単に、計算ができないだけなのですが、この報道を信じて結果的に大損してしまう人がたくさん出そうなので、かなりまずい報道内容です。
下記のものです。
住宅ローンの金利変動リスクを何倍も過大評価した計算が示されていて、消費者を不適切に脅す結果になっています。
記事のなかで、具体的な計算が示されているのは、たった1箇所だけ。その計算はファイナンシャルプランナーによるもので……、
2500万円で金利が1.5%上がると計算すると、月額1万3000円上がる。35年間で550万円増える
というもの。
この計算、単純な計算としてはほぼ正しいようにみえて、そもそも、住宅ローンでこんな計算をするようでは、これを示したファイナンシャルプランナーは、金融の基礎知識がまったくないといえます。……これは、特定のファイナンシャルプランナーの問題でなく、日本では、マスメディアなどで比較的知られたファイナンシャルプランナーでも、この程度の(アドバイザーとしてはまったく信用できない)レベルの人がたくさんいます。
日本の報道の問題としては、こんな低レベルの、しかも、内容としては「変動金利で住宅ローンを借りている人の不安を不適切に煽るもの」が、テレビ局内のいろいろな段階のチェックを通り抜けて放送され、しかも、インターネット上のヤフーのトップサイトで紹介され、かつ、私が読んだときには、この内容の基本的なまちがいを指摘するコメントなどつかず、このまちがいがどんどんインターネット上で広がったと思われることです。
さて、なにがまちがいか?
実際に住宅ローンの計算をしたことがある人や、銀行で少しでも働いた経験がある人は、簡単に気がついたでしょう。もちろん、いま金融機関で働いている人や、ちょっとは金融についてわかっている大学生なら、気がつかないはずがないレベルの、初歩的なまちがいです。
第1に、この計算は、35年間、ローンの元本をまったく返済しないことを前提にしています。そんな住宅ローン、あるわけない。
第2に、いきなり金利が年1.5%上昇するという前提で計算しています。もしそうなれば、日本の金融市場がパニックになり、当然、金融政策のやり方も大幅に変更になるかもしれません。そもそも、異常すぎる前提です。
だから「550万円増える」というのは、とんでもなく過大な金額で、これをローンではなく、資産運用の話に置き換えると、たとえば30万円ぐらいが適正な株価であるような株について、「いまなら、超特価の100万円で買えます」と煽るようなものです。これを実際にやると、「未公開株詐欺」と呼ばれる悪徳商法になります。
多くの日本人にとっては、資産運用よりも、住宅ローンの金利選択のほうが大きな影響をもちやすいので、今回取り上げた報道は、本当にひどいものです。……いまどき、悪徳商法の広告塔となっている専門家でも、ここまで過大な数字になるような計算はしないように思われます。
ビッグデータ時代とか、統計学ブームとか騒がれているのに、こんなに基本的なまちがいがある数字がテレビやインターネットを通じて広がってしまう。残念です。日本のマスメディアは、統計学ブームを取り上げる前に、ふつうに計算チェックをする体制を整えるべきでしょう。

日本語という障壁と、日本の労働者

ある調査によると、世界の学生の9割超は海外で働きたいとのこと。
この調査をどこまで信じるか? ……慎重な態度で読むべきデータでしょうが、なかなか興味深いとも感じます(調査方法を変えれば、結果も大きく異なる可能性がありますが)。
卒業後に働きたい国の人気上位は、
1位アメリカ
2位イギリス
3位オーストラリア
4位カナダ
4位ドイツ
6位フランス
7位スイス
8位スウェーデン
9位日本
10位スペイン
とのこと。
失業率、企業・産業の国際競争力を考えると、日本の順位は低すぎる感じです。英語圏の国が上位に来ていることから、日本の場合、海外からの優秀な労働者の流入にとって、日本語が大きな障壁になっていることがわかります。
逆にいえば、日本語という障壁があるからこそ、日本の労働者は国際競争から守られている。これからの日本の経済社会を考えるときには、この点をもっと強く意識するべきだと、私は考えます。

2013年5月 1日 (水)

ビッグデータ時代と統計学についても、新聞・ラジオの取材を受けました

自分の仕事がなかなか進まず、やるべきことができていないなか、やたらに取材対応が入って、かなり疲れました。

昨日は、雑誌の取材の相談、今日は、ラジオの取材を受けました。どちらも、MRIインターナショナルのMARS投資ではないテーマの取材です。その間に、MRIインターナショナルのMARS投資の取材依頼が新しくありましたが、お断りしました。ここから先は、被害者の相談事例が集まっている弁護士が対応するべきで、そうした問題について私がアドバイスなどをすることに露骨に不快感を示す弁護士もいて、彼らとこれ以上トラブルになりたくないので、MRIインターナショナルのMARS投資の話は、自分で啓蒙的な情報発信をしたいときにはブログや著書などで書くかもしれませんが、取材依頼に応じるかたちでの情報発信はやめようと思います。
さて、昨日の取材依頼のテーマは「アベノミクス」で、拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)を評価していただいてのものでしたが、いろいろと話してみると、ご質問の内容(税と財政に関する細かな制度的知識が必要なこと)が私の専門分野とずれていて、その分野(財政)の専門家でアベノミクス関連本の著者はたくさんいますので、他の方にお願いしてくださいと申し上げました。
今日の取材対応は、「統計学がブームになっていること」がテーマでした。この点では、朝日新聞の取材を受けたことがあり、4月17日の朝日新聞(朝刊)にコメントが載りました。
今日は、TOKYO FMの取材で、放送日には東京に行けないので、電話取材を受けました。偶然ですが、昨日届いた、PHP研究所からの電子書籍ダウンロードの実績データをみると、2011年10月に出版された拙著『数字のカラクリを見抜け! 学校では教わらなかったデータ分析術』(PHPビジネス新書)の今年3月(直近データで)のダウンロード数が、異常に突出していました。著名ネット書店のデータでみると、昨年11月から昨年12月にかけて約10倍になり、それが今年2月まで続き、今年3月にはそこから約20倍になりました。数ヵ月で約200倍になったので、本当に驚きです。……とはいえ、電子書籍の市場規模は小さく、紙の本と比べれば、さほどの数量ではありません(紙の本であっても、十分に増刷がかかる数量ではありますが)。
この本については、たとえば2012年2月にトヨタ自動車の東京本社で講演をさせていただいたことがあり、ビジネス上のデータを扱う人たちが読むべき本として評価していただいての講演でした。そのあと、大学生と高校生に対しても、この本の内容をベースにした講演をしました(大学生は、母校の新入生、また、高校生は、著名進学校の1年生が相手でした)。もともと、私が講演会で話すネタで、いちばんウケるのは、データの読み方、そのつぎが金融商品(資産運用)の話です。
そんなわけで、ラジオの取材に応じて、統計学の話をしゃべって、このブログを書いていたら、「MRIインターナショナルのMARS投資をAIJ事件との類似性で論じるのはおかしいと思う」ということをおっしゃって連絡してきた取材依頼があり、そういう方向に新聞報道を変えてほしいという気持ちがありますから、つい取材対応をしてしまいました。
とはいえ、もう1年分ぐらいの取材対応はしたと思いますから、これでやめたいと願っています。本当に、自分の仕事と生活に支障が出ていますし……。

2013年4月29日 (月)

拙著『日本の景気は賃金が決める』のポイントは「賃金格差が景気を決める」と主張していること

スティグリッツ教授が、「アメリカ(米国)は先進国中、最も不平等な国」といっている記事を読みました(無料部分だけですが)。つぎに、中国の格差についての記事も読みました。下記のものです。
ところで、拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)の内容について、ネット上の書評などだけで論じて、いいかげんなコメントを書く人たちがネット上にいろいろといます。まあ、ネットなんてそんなものなので、仕方がないのですが、ネット上の情報を検索して読んでからネット書店で本を買うタイプの人たちに対して、少しは著者としての情報発信をしておこうと思います。
賃金デフレこそがデフレ不況の原因であり、その背景には、日本銀行の金融緩和があったという主張は、以前書いた『日本経済の奇妙な常識』でおこなったものです。今回の『日本の景気は賃金が決める』は、さらに進んで「賃金格差の拡大が不況の根本原因であり、低賃金グループの人たちの賃金こそが大幅に上がるかたちで賃金格差を是正しないと、日本の景気の本格的な回復はありえない」と主張し、そのための政策を、いまおこなわれているアベノミクスを現実的に少しずつ修正することで実現しようと提案するものです。
なぜ、賃金格差が問題なのかについては、データを示して解説しています。低賃金の人たちは、それゆえに追加でもらったおカネをほとんど消費に回して、景気をよくする人たちです。他方、高賃金の人たちは、安倍政権が財界にお願いして実現しそうなボーナスアップなどを、おそらくかなりの部分、貯蓄(住宅ローン返済もマクロ経済では貯蓄にふくまれます)に回してしまい、それゆえに景気を悪くする人たちです。個々には、これと異なる行動をとる人がたくさんいますが、日本全体で平均的にみると、このような傾向が顕著です。
問題は、日本の賃金格差の背景にある社会構造をみると、ある意味で、アメリカよりもずっと不平等であることです。日本の賃金は、「男性・大企業社員・正規雇用・長期勤続(中高年)」の属性をもつ人が突出して高く、これらの属性のどれかがなくなると、平均的には、大幅に賃金が下がります。「女性・中小零細企業社員・非正規雇用・短期勤続(若者)」のどれかの属性をもつ人たちは、世界の主要先進国中で最悪といえる賃金格差に直面します。属性による賃金格差がひどいという意味で、私は、日本の賃金格差はアメリカよりずっとひどく、賃金はきわめて重要ですから、日本はアメリカより不平等な国だといえると考えます。
中国の経済格差も相当にひどいのですが、ある程度以上の経済力がある国では、相対的な貧困が問題になりますから、日本は、中国に似た感じの経済格差を抱えていると みてもいいでしょう。これが少子化にもつながっています。
女性にこそ読んでほしい、中小零細企業で働く人にこそ読んでほしい、非正規雇用のかたちで働く人にこそ読んでほしい、若者にこそ読んでほしいと考えて、今回の本を書きました。
つまり、私は、単純に賃金が上がればいいなんていっていません。女性の賃金が上がること、中小零細企業で働く人の賃金が上がること、非正規雇用者の賃金が上がること、若者の賃金が上がることが、日本の本格的な景気回復のためにはどうしても必要なのです。方法はあります。過去の日本経済で起きたことを参考に、データを示してそれを論じています。どうぞよろしくお願いいたします。

日本政府と一部のメディアは、MRIインターナショナルのMARS投資についての自分たちの罪をごまかそうと必死になっている?

MRIインターナショナルのMARS投資について、何度も書き込んでいて、おそらくこれを読んでいるマスメディア関係者もいらっしゃるでしょうから、マスメディアへのお願いを兼ねて、再度書きます。……約10日前に新刊を出したところで、せっかく、いくつもの好意的な書評をネット上に載せていただいたところなのに、わざわざマスメディアを敵に回すかもしれないような内容を書くのは、本当にバカげたことだとわかっています。
しかし、この機会に日本政府とマスメディアのひどさを指摘しておくことで、日本政府も日本のマスメディアもまったく信用できないから、変な金融商品に投資をすると、簡単に全額を失う危険性が高いことを、ぜひ知っていただきたいと思いますから、あえて書きます。
まず、取材を受けたうちで、私のコメントが掲載された(らしい)ものを引用します。下記リンク先の記事に載っています。……ただし、広島で買った産経新聞には掲載されておらず、限られた地域での掲載だったと想像します。
私のコメント部分だけを引用すると……
「MRIの金融商品は、機関投資家ではなく一般投資家を狙った投資詐欺の疑いがあり、構図としては古くからある手口だ。海外に拠点を置き、アメリカの診療報酬請求債権を投資対象とする点が新しいといえる。仕組みが複雑なため、投資家にとっては理解が難しく、同社の高利回りが可能という説明についても疑問を持ちづらかっただろう。投資先を医療制度に関連させたことで安心感を持たせ、破綻しづらいと思わせており、巧みな手法といえる」
取材の際には、「2007年春の時点で私がMRIインターナショナルのMARS投資の情報を得たときに、なぜ、すぐに投資詐欺と断定したか」をていねいに説明しており、他の取材対応でもそうでしたが、当時の「週刊ダイヤモンド(2007年6月16日号)」の記事を必ず読んでもらってから説明しています。そして、産経新聞の記者は、円建てと米ドル建ての金利の差をみれば、すぐに投資詐欺だと気がつくべきものだったという解説に納得したという趣旨のメールを返信してきたのですが、この肝心の部分は記事になっていません。これは、金融の基礎知識がない人には内容がちょっとむずかしい(ただし、FXをやっている人ならすぐわかる)ので、仕方がないとも思えます。
私がブログで最初にMRIインターナショナルのMARS投資について書いてから数時間のあいだに、5人のマスメディア関係者とこの件について話をしました。他に、MARS投資の被害者からのご相談のメールもありました。
マスメディア関係者のほとんどは、AIJ事件との類似性について質問してきました。そして実際に、本件について報じた多くの記事が、AIJ事件に類似したものとして報じています。
しかし、AIJ事件とは根本的に異なる、と私は説明しました。何度も質疑をしたうえでこれに納得してくれた記者もいました。ものすごく荒っぽくいえば、AIJはただ運用が下手で(運用がおそろしく下手な野村證券の出身者がつくった会社ですから、納得できることで)、それで資産をどんどん減らしてしまったのですが、最初から投資詐欺をやりたかったわけではないでしょう。そもそも、運用方法はAIJに任されている。他方、MRIインターナショナルの場合は、MARS投資という明確な運用方法が決まっていて、本当にそれをやる気などないことが、すぐにわかるものでした。つまり、MRIインターナショナルのMARS投資は、最初から豊田商事、平成電電、近未来通信のような投資詐欺として企画されたと考えるべきものでした。詳細は、これから明らかになるでしょうが、6年前に私が投資詐欺にくわしい人たちにMRIインターナショナルのことを話したところ、誰もが「おそらく投資詐欺にちがいない」と推理しました。
ところが、どうやら日本政府がAIJ事件との類似性に注目させるように誘導した記者発表をしたようで、マスメディアもそれに乗っかっています。たとえば、下記のような記事が出ています。
金融知識がない個人を狙って、かつ、新聞広告や芸能人の広告塔を使って資金を集めたところを考えれば、AIJではなく、平成電電や近未来通信などとの類似性に注目すべきですが、そうすると、少なくとも6年前には政府機関のなかにもしっかり投資詐欺の疑いが濃厚との情報をつかんでいる人間がいて、週刊ダイヤモンドのように注目度が高い経済専門誌がきちんと取り上げていたMRIインターナショナルのMARS投資について、日本政府や他のマスメディアがそれを放置し、むしろ被害拡大に手を貸すかたちになったことを追及されやすくなります。
それは不都合なので、AIJとの類似性を強調したいという点で、日本政府と、MRIインターナショナルの広告を載せたマスメディア(さらに、平成電電や近未来通信の広告を載せ、TVCMを流したマスメディア)は、利害が一致するのかもしれません。実際に、AIJのときにはあれほど大騒ぎしたのに、現時点でわかっているだけで1300億円を超えるといわれる投資詐欺のMRIインターナショナルの報道での扱いがいきなり小さくなっています。どういうことなんでしょうか? やはり、本件は扱いたくないのでしょうか?
でも、いずれMRIインターナショナルの実態が暴かれることを考えれば、マスメディアは、AIJとの類似性でMRIインターナショナルについて解説するのをやめて、豊田商事、平成電電、近未来通信のような投資詐欺との類似性で解説するように、早く方針変更するべきだと思います。ぜひ、お願いします。

某テレビ局はなぜ、無理して撮影した、MRIインターナショナルのMARS投資に関する私のインタビューを流さなかったのか? ひとつの見方

どうも放送されなかったようですから、子供との約束を後回しにしてまで(その事情を相手も知っていたのですが……)テレビ局に行ってインタビューに応じた映像が、どうして流されなかったのかを、考えてみます。……ブログだから本音で書きますが、取材依頼をしてきた人たちは真剣だったと感じましたが、結局は悪徳商法の味方をしてしまいやすいテレビは放送できないのではないかと、私は予想していました。また、大手の新聞は、おそらくまともな報道はできないと予想していました。

第1に、新聞社もテレビ局も、やたらに広告塔になった芸能人のことを質問してきました。それで私は、この話を追求すると、御社の責任もおそらく問われますよと警告しつつ、私のブログでひとつ前に書いたような内容を話しました。それで、結局のところ、この話は新聞もテレビもまともに取り上げていません。はっきりいって、日本の新聞・テレビについては「信じるほうがバカ」と考えるべきです。
今回のMRIインターナショナルのMARS投資は、これをまともに調べるほど、日本の新聞・テレビは詐欺被害を拡大する主因となってきたという不都合な真実が明らかになります。
第2に、たとえば、多くのマスメディアは、MRIインターナショナルのMARS投資のような特定の海外投資商品について、自社の新聞を信頼して購読してくれている顧客や、自社のテレビ視聴者のことなどなにも考えずに、金融商品を好意的に取り上げることが多すぎます。MRIインターナショナルの広告の件は、おそらくネット上でたくさん取り上げられているので、別の事例を紹介しましょう(なお、下記に取り上げる企業・金融商品について、私は、たとえば投資詐欺と断定するような記述を決しておこなっていないはずであることを、申し上げておきます……私がわざわざこのように断る理由については、よくご推察いただければさいわいです)。

«MRIインターナショナルのMARS投資は投資詐欺であり、被害が膨らんだのは一部の新聞社と日本政府が原因