『スタバではグランデを買え!』の当初原稿にあった「練習問題」を一部紹介します(その1)
昨年9月に出版した『スタバではグランデを買え!』の各章末には、もともと、読者に考えてもらうための練習問題をつけてあったのですが、ページ数が多すぎたため、すべて削りました。
ここで、その練習問題の一部を紹介します。
興味がある方は、ぜひ考えてみてください。各問についてのご意見やご質問は、このブログにコメントをつけるかたちでお送りいただければ、このブログでお答えします(申し訳ありませんが、メールでお寄せいただいても、お返事しないとお考えください)。
[1]あるスーパーで、あるブランドのビールの500ml缶(6本入り)が安売りされた日のことです。同じブランドの350ml缶(6本入り)は値下げされませんでした。500ml缶は350ml缶より安い価格にまで値下げされたため、その日に限っては、サイズの小さい350ml缶のほうが価格が高いという状況で、しかし両方が同時に売られていたそうです(その店でアルバイトをしていた学生から聞きました)。まったく同じブランドのビールでの話です。
ビールを冷やして陳列しておく棚の一番目立つ場所に、その日の安売り商品になった500ml缶が置いてあり、350ml缶は少し離れた位置に置いてあったのですが、両者の価格を比べれば、誰も350ml缶のほうを買わないように思われます。この場合、スーパーの価格設定は合理的でしょうか。あるいは、スーパーが合理的に価格設定をしているとすれば、500ml缶のほうが安いのはなぜでしょうか。理由を考えてみてください。
[2]2006年12月に東京・中野にできた生鮮100円コンビニ「ショップ99」の開店セールでは、同じ99円で「丸ごとのキャベツ」より「半分のキャベツ」のほうがよく売れたそうです(2007年1月8日の日本経済新聞)。その理由を考えてください。
[3]とある田舎の村に、1軒の駄菓子屋があり、その店では缶コーヒーが100円で売っています。ホットもアイスも店先で売っており、いつ行っても混んでなどいませんから、すぐに買えます。ところが、店の横に自動販売機があり、まったく同じ缶コーヒーが120円で売っているとします。
誰もが、店内では100円で売っていると知っていますし、買う際の手間や時間もほとんど変わりませんから、店が開いている平日の昼間は、誰も自動販売機では買いません。しかし、店が閉まっている夜間・早朝・土日は、自動販売機の缶コーヒーがそれなりに売れます。
平日の昼間だけをみると、同じ缶コーヒーがちがう価格で並んで売られていることになります。何らかの取引コストが存在するために、そのような現象が起きているのですが、それはどのようなコストでしょうか。考えてみてください。
《ヒント》お店の経営者とは別の人が自動販売機を設置していると想定してみましょう。その人は夜間などに120円で売れることに満足しているものの、本当は、平日の昼間には横の店に対抗できる価格で売りたいと思っているはずだとすると……。
[4]A社が売り出した商品がヒットしたあとで、ライバルのB社が同じような商品を、商品名やパッケージもかなりA社の商品に似せて売り出すことがあります。もしB社が無名の企業であれば、先行するA社の商品の知名度を利用しようとしているだけだと感じられます。
しかし、B社がその分野ではすでに有名で、ブランドイメージも大切にしている企業であったとすると、そのような戦略の背景には、自社製品に対する強い自信があると思われます。なぜでしょうか。また、あなたが買い物をするときに、これに相当する事例を探してみてください。
[5]花子さんは、自分が持っているデジカメはかなり古くなっており、最新機種と比べて機能がかなり劣っていると感じています。だから買い替えたいと思いつつ、なかなか買い替える踏ん切りがつかなかったのですが、海外旅行に行く直前になって、やっとデジカメを買い替えたとします。
この買い替え行動の長所と短所は何でしょうか。
[6]筆者が実際に、家電量販店のチラシにあった洗濯機(大手メーカー製の売れ筋商品)を売場に見に行ったところ、チラシにあった価格より6千円近く安くなっていて、11万2千円でした。それは最大8kgの容量まで洗濯できる機種でしたが、まったく同じ大きさ・デザイン・機能で、洗濯物の最大容量だけが7kgと少し小さくなっている機種も隣に並んでいました。
ところが、容量が小さいほう、つまり7kgタイプの価格は、なぜか8kgタイプより6千円も高く、11万8千円でした。外形の大きさはまったく同じですから、7kgしか洗濯できないものよりも、8kgまで洗濯できるほうが明らかに便利です。それなのに、7kgタイプより8kgタイプのほうがかなり安いのです。
(a)このような価格の逆転現象が起きるのはなぜでしょうか。
(b)しばらく使ってから中古品として売る(下取りしてもらう)場合、7kgタイプと8kgタイプの価格差はどうなっていると予想されるでしょうか。
(c)2つのタイプを並べて売っていれば、7kgタイプを買う客はほとんどいないと思われます。ではなぜ、筆者が見に行った店では並べて売っていたのでしょうか。店側の立場で考えてみましょう。
[7]企業はいろいろな方法を駆使して、まったく同じ商品を、高く買ってくれそうな客には、できるだけ高く売り、安くないと買いそうにない客には、それなりに安く売ろうとします。これを「価格差別」と呼びます。
そのやり方を大きく2つに分けると…
(A)グループ別の価格差別:たとえば、客を2つのグループに分けて、価格の上下に反応して購入量が変動しやすいグループには、価格を下げて、たくさん売ろうとする。一方、価格の上下に対して購入量がさほど変動しないグループには、価格を上げて、より高く売ろうとする。
(B)自己選択型の価格差別:クーポン券を使う方法が典型的で、小さなクーポン券を配り、それを持ってきた客にだけ割引をする。安くないと買わないタイプの客は、きちんとクーポン券を持ってくるので、実際に割引の適用を受けて安く買う。他方、高くても買うタイプの客は、クーポン券を捨てたり忘れたりしやすいので、割引が適用されず、高く買いやすい。この方法だと、客自身の行動によって、自動的に価格差別ができる。企業側がグループ分けするのでなく、客自身に選択してもらうところがポイント。
さて、経済学の入門書などで、価格差別の例としてよく出てくるのは、パソコンのソフトウェアにおける学割です(アカデミック・ディスカウントなどと呼ばれています)。
多くの入門書には、ソフトウェアでの学割は「グループ別の価格差別」の例として登場します。学生のグループは、価格が安くなると、購入量が大きく反応して増えやすい一方で、社会人のグループは、相対的に価格に反応しにくく、高くても必要なら買う可能性が高い。だから企業としては、学生には安く、社会人には高く売ったほうが儲かるという説明です。
じつは私(吉本)は、この説明に不満です。ソフトウェアを販売している企業によっては、この論理で説明できそうな行動を取っている企業もなくはありません。しかし、マイクロソフトやジャストシステムなどの多くの企業は、確かに学割を用意して価格差別をしていますが、これとは別の考え方で説明すべき価格差別をしている、と考えています。
実際にソフトウェアを売っている店に行って、マイクロソフトやジャストシステムの製品を学生などが学割で買うところをみれば、この考え方だけでは説明できないことがわかるでしょう。そもそも、学校の先生(大学教員もふくむ)も学割の対象として安く(学生と同じ価格で)ソフトウェアを買うことができますが、「安くないと買わないグループ」に入るようには思えません。
あなたなら、ソフトウェアの学割について、どのような考え方で説明しますか。
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コメント
こんばんわ
いつも興味深く拝見させていただいております。
[1]「ビールの価格」について自分なりに考えてみました。
まず①価格が合理的でない場合
スーパーはお客さんを集めるための広告の目玉商品として、
赤字覚悟で350mlより安い値段をつけた。
次に②合理的である場合
「スタバでは~」の考え方で、そもそも500mlも350mlも製造コストはさほど変わらない。で、仕入れコストもさほど変わらない。
ということで、利益率の高い500mlの利益を押さえてお買い得品を見せかけ、実は350mlより思ったほど売れなかった500mlの在庫処分をした。
自分なりに真面目に考えてみましたがどうでしょうか?
投稿: サダ アキラ | 2008年12月 5日 (金) 23時17分
吉本佳生です。
サダ アキラ様、早速のご解答ありがとうございます。
コメントが遅くなって申し訳ありません。
ほぼ正解だと思います(思いますとしか書けないのは、私も直接現場にいたわけではないので、正解を推理するしかないからです)。
ただ、コーヒーとは少し事情が異なります。「スタバでは~」にコーヒーの原価(原材料コスト)がとても安いと書いたのはご指摘の通りですが、ビールの場合、価格の中で税金が占める比率が高いので、原価の差もある程度は気にする必要があります。
どちらにしても、ご指摘の「思ったほど売れなかった500mlの在庫処分をした」という点が、500mlのほうが安くなった理由だと思います。その現場にいたら、350mlと500mlのビールの「製造年月あるいは賞味期限」を比べてみれば、500mlの在庫処分だったことがはっきりとわかった可能性があります。
鮮度を売り物にするビールのテレビCMもあったように、ビールも新鮮なほどおいしい。その点では、お刺身やお肉と似た性質を持つ。お刺身やお肉も、賞味期限に応じて大幅な値下げがあったりする。それと同じ現象が、ビールでも起きていると考えるのが、自然な推理かなと思います。
投稿: 吉本佳生 | 2008年12月 8日 (月) 07時21分
1)1番飲まれるサイズは350mlで500mlは夏場の時期でさばけなければ在庫となると考えられる
いつもの量でいい人は350mlお得感を優先する人は500mlを買う
2)コンビニで買い物をする人は一人ものの人が多いいだろうから食べ切れないものより半分サイズを選んだのでは
3)昼間の人件費分は稼がないといけないので店内では100円
自販機は24時間電気がかかっているので夜に稼ぐのかな
自販機自体の売り上げもないと電気代も出ない
4)信頼のあるブランド力のある企業が後から売り出すと
同じ内容なら多くの人はブランド力のあるよく知っている企業の製品を買うのでは
5)最新の機能が付いたものが手に入ること、何かのきっかけがあればと思っていたことに対しての踏ん切りがついたことに対してが長所
このきっかけがなければまだ十分に使えたはずなのに買ってしまったことが短所
6)a)8kgが売れ筋だとすれば7kgよりコストは安く生産できるのかな
b)売れ筋である8kgのほうが高い
c)8kgの洗濯機だけを置いておくより比較対象してお得感のある8kgを選びやすくしているのでは 売れ筋の商品を売るのが
お店側としてもやりやすい
7)自分もいつも不思議に思っていました、実際にアカデミックがどのくらい売れるのかわかりませんが、企業イメージを上げるための広告宣伝で、営利だけではありませんよと言おうとしているのでは、実際にはこの製品ではライバル企業はほとんどありませんよね。
日頃から思っていることを書いてみました。
投稿: ヒューマン | 2008年12月 8日 (月) 21時46分
吉本先生、はじめまして。『スタバではグランデを買え!』本日、読み終わりました。
当方、41歳の川崎市在住のコンサルタントですがWebサイト関連が専門の為、この本は、まさに目からウロコの箇所が10箇所以上あって、ほんとうに買ってよかったです。
2つお教え下さい。
(1)当方、経済学は素人ですが、次に吉本先生の本を読むとすると、何を買えば良いでしょうか。吉本先生のファンになったという理由で読みたいので、ジャンルは何でも結構です。
(2)『スタバではグランデを買え!』の中で、「実質金利の話は、重要だが、残念ながらこの本では説明する機会が無い」といったことを書かれておられたと思います。実質金利について、一番やさしく解説した、吉本先生の本を教えてください。
お手数をお掛け致しますが、よろしくお願いいたします。
投稿: なかたこ | 2008年12月14日 (日) 14時05分
こんばんわ、
ご回答いただきありがとうございます。
嬉しいです。
またよろしくお願いします。
投稿: サダ アキラ | 2008年12月15日 (月) 21時28分
吉本先生はじめまして。「クルマは家電量販店で買え!」の末尾に紹介されていたURLをもとに、このサイトに来ました。
すでにこのコメントで寄せられた回答と自分なりに考えた結果が異なる点を以下に示します。
3)店が閉まっているときは、120円にしても売れる(サラリーマンなど、店の閉まっているときしか通らない人も多い)と考えたから。
競争力を保つため、昼間は安くしようとしたら、設定をそのつど変えなければならず、安くした場合の利益よりそのためのコストが上回るので、そのようなことは行わない。
5)買い替え行動の短所
直前になって購入した場合、海外旅行時には機能を十分使えこなせないので、古い機能の劣った機種の方が使える。
7)会社員の場合、会社で使うソフトを選択せざるを得ない(会社の仕事を持ち帰って仕事するため)ことが多いと考えられるので、価格の高低にはあまり影響されない。
学生には、そのようなしがらみが少ないので、安ければ買ってもらいやすいのと、卒業後も使ってもらえる可能性が高い。
(自社製品に慣れてしまうと他社製品にはなかなか乗り換えにくい)
投稿: 月光2号 | 2009年1月 4日 (日) 17時03分
出社が楽しい経済学の集中再放送から、このHPにたどり着きました。(金融工学の悪魔を拝読して以来、お前は存じ上げていたのですが、テレビでお顔を拝見して)
経済学の門外漢ではありますが、僭越ながら問題について。
安売ビール
在庫処分以外の可能性も高いのでは。安売商品は付随購入の誘因であって、単体損益を重視していると思えません(付随購入利益が安売損失より高ければペイします)。従って、500mlが350mlよりも安いという「特異な状況」を、意図的に選択している可能性があると思います。
ソフトの学割について
そもそも汎用アプリケーションの価格設定自体に論点があると考えます。ソフトウェア原価は大半、開発人件費(固定費)であり、追加費用として流通費用とメンテナンス(変動費)が生ずるにすぎません。限界利益がものすごく高い。恐らく両社とも投資コスト回収後は、(全般的値崩れを起こさない限り)半値販売でも十分なはずです。従って、学生の価格選好を踏まえているわけではなく、全般的値崩れを防ぎつつ販売量を増やす名目であれば何でもよい(「シルバー割引」「ユーザー割引」「提携割引」でも)というシンプルな価格差別政策ではないでしょうか。(現に、法人宛の一括販売の価格は単価積み上げでは全く説明できません)
投稿: Fan | 2009年3月15日 (日) 03時38分