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2009年2月

2009年2月28日 (土)

「出社が楽しい経済学」の放送『第8回 裁定』監修者の言い訳

現実には「裁定」のチャンスはほとんど存在しない。他方、「投機」は世の中にあふれている。しかも、本人は「確実に儲かる取引」をしていると信じているのだけど、非常に危険な投機をしているというケースもよくある……偶然にも今日、その強烈な典型例を実際にみてきました。
先日のブログにコメントがついていますので、そのネタについて書きます。コメントは、兵庫県朝来市の市議会議員の先生からで、今日、私が朝来市に行くことにふれて、その先生は参加できないけれども「よろしく……」と書かれていました。
兵庫県のローカルニュースとしては、主要紙や複数のテレビが報じているようですが、朝来市は108億円の基金の大半を怪しげな金融商品で運用していることが発覚しました。かつてこのブログで、大学の巨額損失の話を書きましたが、そこにも出てきた非常に悪質な金融商品です。
ところが、運用の責任を問われた市長は、「安全な運用で、まったく問題ない」といった趣旨の説明を市民に向かってしているとのことです。あきれたことに、兵庫県までもが、同じようなコメントをしています。ちなみに、私が住む名古屋市も、ほぼ同様の運用をしているらしいことが、先週の日経に出ていました(日経の記事を読んだだけではわからないような書き方でしたが、事情を知っている人間が読めば、わかる記事でした)。
なお、名古屋市役所は、借金の際にも強烈なギャンブルといえる借り方をしていることが、2年ほど前に指摘されており、運用のほうでも危険性の強いギャンブルをしていますから、税収はギャンブルのタネ銭だと思い込んでいるようです。「ギャンブル中毒市役所」と名前を変えるべきでしょうね(ついでに「おバカ」という言葉もつけるべきですね)。さすが、パチンコの本場……などと笑うわけにはいきません。私が一所懸命働いて稼いだ所得から支払った税金が、ギャンブル狂の名古屋市役所のギャンブルのタネ銭になっているのですから。もちろん、激怒しています……さっさと名古屋市以外に「ふるさと納税」をしなくては、ねぇ、善良な名古屋市民のみなさん!……実際には、面倒なので、私はしない可能性も高いのですが、そう思うぐらい怒っています(当然ですよね)。
それで、兵庫県が、兵庫県内にある朝来市の危険な運用を「問題ない」と片付けようとするのは、借金の際のギャンブルを兵庫県もしているし、兵庫県の中心都市である神戸市もしている(これらは約2年前に指摘されていた)という事情、また、兵庫県内には朝来市以外にも、同様の問題を抱える市がありそうだといった事情があります。
要するに、県下の地方自治体にギャンブル中毒が蔓延しすぎているうえに、兵庫県そのものもギャンブルに手を染めているので、「これはギャンブルじゃない」と言い張るしかないのです。
このブログを読んでいるみなさんの住んでいる地方自治体も、もしかしたら、みなさんが支払った税金をタネ銭にして(あるいは将来の税収をカタにして)為替レートや株価の変動に賭けるギャンブルをしているかもしれません。残念ですが、その確率は意外に高いのです。
「確実に儲ける方法の裁定と投機のちがいに注意を!」という居相田係長の指摘は、日本各地の地方自治体にこそ聞いてほしいものです。
なお、どういった内容のギャンブルかについては、運用のほうは拙著『金融商品にだまされるな!』の最終章に、借金のほうは拙著『金融機関のカモにならない!お金の練習問題50』の最終問題で紹介しています。ともに2007年11月に出版した本ですが、じつは、地方自治体などの危険なギャンブルを警告したいという意図もありました。
それで、私の予言通りに、社会問題化しようとしているのですが、隠蔽しようとするところも多い。ですから、きちんと表面化させて、問題に対処しようとしている朝来市に対しては、できるだけの協力をしたいと考えています。

さて、次回の番組のテーマは「囚人のジレンマ」。いわゆるゲーム理論が登場します。私は、じつは中学生のときに講談社現代新書と講談社ブルーバックスで、ゲーム理論の本を読んでおり、経済学部に進んで、ゲーム理論が出てきて、囚人のジレンマが出てきたときには、懐かしく感じたものです。
表が出てきて、その表の読み方に慣れるまで戸惑いやすいのがゲーム理論ですが、番組の担当ディレクターが必死になってわかりやすくしてくれています。ぜひ、お楽しみに。
番組のガイドブックをお持ちの方は、手元に置いて番組をみていただくといい回です。なお、ガイドブックに出てくる表は、担当ディレクターが橘玲先生のご著書を参考に作成していますので、どこかでみたことがあると思われた方、そう、どこかでみたような表になっています……私は他人のアイディアの真似はできるだけ避けたいと思うのですが、NHKの番組制作者は、番組をわかりやすくするためなら、そんなことは気にしないので……とにかく、必死にわかりやすくしたはずの回を、どうぞお楽しみに。

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2009年2月22日 (日)

映画館よりファーストフード店を押した理由

昨日の話(「出社が楽しい経済学・第7回・価格差別」の制作裏話)のつづきです。
価格差別の例としてよく使われるのが「学割」で、いろいろな本でよく出てくるものとして、つぎの2つがあります。

1.パソコン・ソフトの学割(アカデミック・ディスカウント)
2.映画館の学割

ところが、この2つを番組の題材として使おうとしたNディレクターに対して、私がそれはダメだと強く主張したために、かなり面倒なことになり、長い長い時間議論をせざるをえなかったのです。
私がダメだと考えた理由を説明する前に、これらの事例を使って説明したかったのは「グループ別の価格差別」だという事情を述べておきます。番組の中で、前半は「グループ別の価格差別」をやり、後半は「自己選択型の価格差別」をやるという基本方針があり、実際に昨日の放送もそうなっていましたが、この2つのうち、意外に前者の「グループ別の価格差別」の事例が探しにくいというのが、私の実感です。

それで、先の2つの事例に私がダメ出しをした理由を説明すると、まず、1の「パソコン・ソフトの学割」は、たいていの場合、教員にも適用されます。教員は研究・教育目的で買うのだから、「高くても買いそう」と考えてもいいはずです。その教員に対して割引するのは、「価格に敏感な相手には割引(安く)」という価格差別の論理からではなく、「教員が使えば、それと同じソフトが学生に売りやすくなる」という理由からだと考えたほうがすっきりします。この考え方でのキーワードは、第12回に出てきます(ネットワーク外部性)。
また、実際のソフトウェアの販売をみていると、たとえばアドビは、かなり厳密に学生・教員の身分確認をして、ひとりにひとつのソフトしか売らないよう管理しています。だから、これを「グループ別の価格差別」と考えるのは、まだわかります。
ところが、マイクロソフトやジャストシステムなどの多くの企業は、すごく簡単な確認で学割を適用します。また、ひとりが何本でも学割で同じソフトを買うことができます。だから、ほとんどの人が、周囲に学生・生徒・児童や教員がいて(いる確率はすごく高く)、その人に買ってもらえば、学割価格で買えてしまいます。
こう考えると、パソコン・ソフトの学割の多くは、じつは、消費者側がひと手間かけるかどうかでおこなう価格差別、つまり「自己選択型の価格差別」とみるべきではないか?……これが私の主張です。こういった紛れがありうる事例はできるだけ使うべきでないと、私が言い張ったため、経済学のテキストによく出てきて、若い人たちにわかりやすい事例のひとつが、番組で使えないことになったわけです。

もうひとつ、2の「映画館の学割」は、本当によく教科書に出てくる事例で、だからNディレクターはこれを番組で使うつもりでがんばったのですが、これも私が使わせなかったので、ガイドブックの「裏話」のところにNディレクターが愚痴を書いているという次第です。
ついでに楽屋内をバラすと、その「裏話」の原稿をめぐっても、数時間話をすることになり、かなり苦労しました。当初、私が「映画館の学割は価格差別ではないと言った」と書かれたのですが、私は「番組で使う価格差別の例としては不適切」と主張したつもりでした。この辺りに誤解があり、お互いにこの件では長い時間苦労したため、水掛け論のような感じになって大変でした。最後は、「私がどう言ったにしても、映画館の学割は価格差別ではないと書いてしまうと、つぎに他のテキストなどを読む人を混乱させる危険性があるから、それは止めてほしい」との説得に、Nディレクターが折れてくれたので、何とかなりました。
ではなぜ、映画館の学割について、価格差別の例として「番組で使うのは不適切だ」と私が主張したのか?
第1に、映画そのものは、制作・配給会社を考えれば、基本的に「独占」です。それで、価格差別は独占企業がおこなう事例のほうが説明しやすい(この点は番組内で私がコメントしています)。だから映画もいい事例にみえるのですが、よく考えれば、映画館はたくさんあって、かなり激しく競争している。だから、「価格差別ではあるけれども、価格差別の典型例として解説に使うには不適切な事例」だと私は思うのです。
第2に、こちらのほうがより大きな問題ですが、映画の料金は、すごく合理的な価格戦略に基づいているとは思えない。この点は、何人もの経済学者が主張している点です。巨額の制作費をかけてハリウッドなどで制作され、ヒットすることがほぼ確実な映画なら、もっと高い料金設定にしてもいいはず。それなのに、どの映画も同じ料金になっている。この点で、「少しでも利益を増やそうと工夫した料金体系」にはみえないのに、「学割で価格差別をしている」と主張するのは、すごく違和感があるし、説得力がない! 私はそう思うわけです。
私自身は、価格差別の事例を示すときには、上記の2つの点に注目して、説明しやすい事例を選んできたつもりです。だから、コンビニやファーストフード店や携帯電話会社などの事例は好きなのです。そういった企業は、顧客データの収集に熱心で、科学的な分析を基に価格設定をしているからです。番組の中でも、できるだけ、「その企業はいかにも戦略的に価格を設定していそうだ」と感じてもらえそうな企業の事例を、と強く主張しました。
また、表面上はグループ別の価格差別にみえて、じつは自己選択型の価格差別とも考えられそうな事例は、できるだけ避けることを主張しました。だからパソコン・ソフトの学割という事例も使えない……もっとも、どちらのタイプの価格差別かを意識しなくていい「番組最後のクイズ」には使いましたが。
それで、基本に立ち返ると、グループ別の価格差別の典型例は、「異なる地域・国」で異なる価格をつけるというやり方で、教科書にもよく出てきます。だから、「地域別価格がいい!」と強く主張しました。特に、マクドナルドの地域別価格は、1年半前に導入されたものですから、さらに説明に都合がいい……この点は、昨年7月に渋谷のNHKに出向いて、丸1日、制作スタッフに経済学をレクチャーしながら番組構成を議論したときにも、強調していました。
というのも、その段階では、何とか「需要の価格弾力性」という概念をきちんと図解で示そうと考えていて(台本などを作り込む段階では、誰もがすぐにあきらめたのですが)、その際に、同じ価格からスタートして、価格を上げるか下げるかという話にするほうが、まだわかりやすいという事情がありました。マクドナルドの事例なら、少し前まで全国で同じ価格だったので、需要の価格弾力性の図解が格段にやりやすいということです。なおこの点は、拙著『クルマは家電量販店で買え!』の中の説明で活用していますが、テレビのような動画的な図解は無理ですので、さほどメリットが感じられません。でも、テレビでやるには、「マクドナルドの地域別価格はすごく使いやすいはず」でした。
そう主張する私に対して、Nディレクターは「何度考え直しても、映画館の学割のほうが身近でわかりやすい」と感じていたようで、くり返し議論をした結果、専門家である私の意見を通してもらったという経緯があります。その際の議論のメモは手元にあり、かなりおもしろいので、またどこかで使いたいとは思っています。

もうひとつ、「貧乏人に対しては赤字覚悟で治療をおこなう医者が、金持ちからは高い治療代を取るという事例も、やはり価格差別だ」と書いてある本があり、この事例も番組制作の際に議論に上りました。
これに対しても、私は強く反対し、それを価格差別として紹介するのはダメだと主張しました。
その理由がわかりますか? ぜひ、考えてみてください。第7回の放送の中にヒントがあります。価格差別とはどういうものかという定義を居相田係長が述べているところがいくつかありますが、そのひとつの説明が、「貧乏人には赤字覚悟で治療する医者」の事例が当てはまるかどうかをチェックすれば、当てはまらないことがわかるはずです。ただし、じつは他の回の内容を適用されると、結論が異なる可能性もあって……あぁ、事例選びは本当にむずかしい! 私たちがかなり細かいところにこだわって番組を制作したことをご理解いただければ、大変にうれしく思います。
なお、第7回の放送を録画していない方には、再放送もありますし、NHKオンデマンドもありますし、さらに、コミック版も3月中旬に出ますし……そのためには、私が今日がんばって、コミック版の初校チェックをしないといけないのですが……あぁ、それなのにブログを書いている……ということで、ここまでで止めておきます。このブログの2つ前での約束は果たしたと思いますので。

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2009年2月21日 (土)

「出社が楽しい経済学」の放送『第7回 価格差別』監修者の言い訳

昨日・今日の2日間は、危険な金融商品を売りつけられて大損した人や、怪しい投資話にだまされた人たちを救う活動をされている弁護士の先生方の集まりである「全国証券問題研究会」が、京都の同志社大学ロースクールで開かれていましたので、そこに参加していました。
2005年5月に『金融広告を読め』という本を出したとき、実在する金融商品広告を基に作成した架空広告を大量に掲載して、バッサバッサと批判しました。その年の12月に、埼玉で開かれた全国証券問題研究会にお招きいただいたことがきっかけで、そのあと、年2回のこの研究会には欠かさず参加しています。
学者(大学教員)としての参加でしたので、大学教員を辞める4月以降はお呼びいただけるかどうか、少し不安でしたが、呼んでいただけるとのお約束をいただき、ほっとしました。私にとっては、本当に勉強になる研究会(内容・形式的には、ほぼ学会)です。
今回参加して、私の専門分野のひとつである「デリバティブ」に関係した金融商品被害が拡大していることが痛感され、もっと本を書かないといけないという気持ちになりました。
3月以降、どういった本を書くかについては、もう少ししたら、ちょっとずつ情報を流したいとは思っておりますが、いまは、残務処理と、NHKの番組関連の仕事がまだ中心で、たとえば、「出社が楽しい経済学」のコミック版の校正が直近の仕事として残されています。

さて、番組の話を……
監修者として一番手間がかかったのが、この「価格差別」の回です。番組ガイドブックのディレクター裏話にもあるように、私がいろいろと注文をつけ、ディレクターもいろいろと提案をして、この回の題材選びだけでも、10時間ぐらいは仕事をしたと思います(会って話をしたり、メールを書いたり、電話で相談したり、調べたりの合計です)。
最近も、クイズの解説についてのやりとりだけで、数時間かけて考えたりメールを書いたりした気がします。クイズの解説で私もディレクターも悩んだのは、つぎのような問題点があったからです。
番組前半で取り上げた「グループ別の価格差別」は、本来なら「需要曲線」と呼ばれる図(グラフ)を示したうえで、「需要の価格弾力性」と呼ばれる概念を使って説明するものです。それを、厳密な説明はせずに、「価格に対する敏感さ」と表現したものを中心に解説しています。これは需要の価格弾力性のことを言っているわけですが、いかにも中途半端な説明で終わらせています。
また、価格差別で企業が増やそうとするのは、本当なら「利益(利潤)」です。ところが、「利益=収入−コスト」ですから、コストの話もしないと、説明ができなくなります。そこで、「利益」でなく「収入」を増やすという話にして、番組内では説明しています。これは、図解の関係上、泣く泣くやっていることです。一応、コストは一定と考えて、収入が増えれば利益も増えると考えているわけです(かなり怪しい言い訳ですね)。
ところが、ホームページ上の解説では図を使いませんから、図解のために無理に「収入」で話をする必要などなく、「利益」で説明をしたほうがいい。この辺りの点と、先に述べた、需要の価格弾力性をきちんと説明していない点が、クイズなどの解説を非常にやりにくくしているのです。

つぎの第8回は『裁定』です。ある意味で、一番経済学らしい話かもしれません。私の本をお読みになった方なら、おわかりの方も多いかと思いますが、『スタバではグランデを買え!』や『クルマは家電量販店で買え!』や『金融工学 マネーゲームの魔術』は、裁定を中心的な考え方のひとつとして書いた本です。
いかにも吉本佳生が監修した番組だという感じが一番出ているのが、次回だと思います。ということで、次回の視聴率や評判が悪いと、番組に関連した私の評価が下がります(それが禍か福かは微妙ですが)。どうぞよろしくお願いいたします(どういう意味かわからない表現ですね)。

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2009年2月14日 (土)

「出社が楽しい経済学」の放送『第6回 逆選択』監修者の言い訳

家庭の都合で、今回は番組の放送時間帯に新幹線での移動を強いられ、残念なことに、番組をみることができませんでした。数日してから録画したものをみるしかないのですが、第6回はこの番組の忘年会で完成版の試写があったため、すでにみていると言ってもいいでしょう。
NHKの番組制作スタッフは、明らかに、この回の「ドラマ」が一番おもしろいと思っているようです。ただし、説明している概念は、全12回の中でもむずかしい部類に入ります。
経済学者が一番重視するものは「インセンティブ(第4回のキーワード)」で、インセンティブが歪んだ(悪い方向への)影響をもたらす問題のひとつが「モラルハザード(第5回のキーワード)」。モラルハザードの背景には、「情報の非対称性」と呼ばれる状況がありましたが、今回の「逆選択」も情報の非対称性が原因で引き起こされる問題です。
それで、番組の本にはきちんと書いてありますが、情報の非対称性は、商品やサービスや労働の売り手(供給側)が情報面で優位にあるケースだけでなく、反対に、商品やサービスや労働の買い手(需要側)が情報面で優位にあるケースもあります。しかし、逆選択の話では、他にもややこしい説明をいくつかする必要がありますから、番組では、売り手が情報面で優位にあるケースを前提に話を進めました。
NHKのスタッフ側は、当初、前半のドラマの中心になる題材として「出会い系サイト」を選択していましたが、中学・高校生向けの教育にも使えるような番組という点を重視していた私が強く反対、結局、出会い系サイトの話は残すものの、中心の題材は「怪しい投資話」となりました。
それで、今度は、「本当に儲かる投資話」と「本当は詐欺的な投資話」の2種類があって……という説明が用意されたのですが、これにも私が難色を示しました。電話で勧誘してくる投資話について、逆選択が起きなければ「本当に儲かる投資話」が存在するとの説明は、誤解を招く危険性がある……なぜなら、逆選択が起きなくても、電話で勧誘がある投資話の中に「本当に儲かる投資話」なんて存在しないからだ! と強く主張したのです。
このように何度も、私が個人的な意見を強く主張しましたので、この回の台本作成では、番組制作スタッフがかなり苦労したと思われます。そういった意味の思い入れもまた、強いのかもしれません。

つぎの第7回は「価格差別」です。
本当は初回に持ってくるはずでした。経済学のおもしろさを伝えようとするときに、経済学者がよく使う、まさに定番のネタだからです。ところが、第7回の台本作成前の打ち合わせもまた、すごく長い時間を要することになりました。その顛末の一部は、番組の本でディレクターが書いていますが……くわしくは、第7回放送後に?……本当に来週その話を書くかどうか、確約はできませんが、覚えていたら書きます(最近、本当にいろいろなことをすぐ忘れますので)。

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2009年2月 7日 (土)

「出社が楽しい経済学」の放送『第5回 モラルハザード』監修者の言い訳

Macユーザーに転向したものの、まだまだ慣れず、今週木曜ぐらいまでに書かなければいけない原稿を、火曜に1000字ほど書いたところですべて失う(文字化けして戻せず)という事態に陥りました。その影響で今日のブログ更新もあっぷあっぷです。
とはいえ、Macはいいですね。WindowsのVista版MS-Officeに比べて、Macの最新のMS-Officeは、前のXP版MS-Officeに近い。Vista版の発売日から使っていて、まだ慣れることができない私は、かなり使いやすさを感じています。

さて、今回の「モラルハザード」は、金融不安がなぜ起こったのか、巨額損失を被った金融機関や大幅な赤字に転落した大手企業の経営危機を救うかどうか、といった現代の重要なテーマを考えるうえで、絶対に理解しておくべき経済用語です。
新聞記事やテレビのニュースに出てくるとき、「モラルハザード」は経済用語としての意味とちがう意味で使われていることが多い。これは本当に残念なことです。それに慣れている人は、経済用語としての意味に切り替えて考えるのがむずかしい。他ならぬ、「出社が楽しい経済学」の制作スタッフでさえ、かなり苦労していました。
そのうえ、モラルハザードの意味の説明によく使う事例として、「保険」の話があり、もともとモラルハザードは保険用語だと言ってもいいぐらいですが、保険を例に説明することに、私が徹底して反対したので、NHKの制作スタッフはかなり困っていたはずです。
それはどういうことか?
通常の経済学テキストの説明では、自動車保険や医療保険などの保険加入者のほうが、乱暴な運転をしたり、暴飲暴食をして健康管理を怠ったりするという意味で、モラルハザードを引き起こす……そう説明される。でも、私が「そんな説明を、この私がテレビですることはありえない!」と言い張ったわけです。
この数年、社会問題として出ていたのは、保険会社のほうが不払いなどの問題を引き起こすというもので、現代では、保険契約をめぐるモラルハザードは、保険加入者が引き起こすものよりも、反対に保険会社が引き起こすほうが申告だったりする。それをバランスよく両方取り上げるのなら、そうしてもいい。でも、保険会社側の問題には言及せず、保険加入者(消費者)側の問題にだけ言及するなんて……実際に日本で保険会社側が引き起こしてきたモラルハザード(不払いなど)の酷さ(非道さ?)をよく知っている私としては、「絶対に嫌だ!」と言い張ったわけです。
でも、こんなややこしそうな概念について、一番よく使われる説明を封じられて、スタッフのみなさんは困ったでしょうね。申し訳ありませんでした。
でもでも、後半のところで、食品偽装などの問題が生じるのには、消費者側にも問題があるという話が出てきます。この話に説得力を持たせるためにも、保険の場合も消費者側に問題があるというだけの説明は避けたかった。いかにも「企業(生産者)寄り」になって、バランスを欠いたと思います。
私は、当然のことながら、今回の構成は気に入っています。わがままを通してくださった、番組制作スタッフにお礼を申し上げます。

つぎはいよいよ、第6回「逆選択」です。今回のモラルハザードと並んで、「情報」の格差が原因で生じる典型的な経済問題のもうひとつ。NHKの番組制作スタッフが一番おもしろいと思っている回です。ぜひお楽しみに。

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