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2013年4月

2013年4月29日 (月)

拙著『日本の景気は賃金が決める』のポイントは「賃金格差が景気を決める」と主張していること

スティグリッツ教授が、「アメリカ(米国)は先進国中、最も不平等な国」といっている記事を読みました(無料部分だけですが)。つぎに、中国の格差についての記事も読みました。下記のものです。
ところで、拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)の内容について、ネット上の書評などだけで論じて、いいかげんなコメントを書く人たちがネット上にいろいろといます。まあ、ネットなんてそんなものなので、仕方がないのですが、ネット上の情報を検索して読んでからネット書店で本を買うタイプの人たちに対して、少しは著者としての情報発信をしておこうと思います。
賃金デフレこそがデフレ不況の原因であり、その背景には、日本銀行の金融緩和があったという主張は、以前書いた『日本経済の奇妙な常識』でおこなったものです。今回の『日本の景気は賃金が決める』は、さらに進んで「賃金格差の拡大が不況の根本原因であり、低賃金グループの人たちの賃金こそが大幅に上がるかたちで賃金格差を是正しないと、日本の景気の本格的な回復はありえない」と主張し、そのための政策を、いまおこなわれているアベノミクスを現実的に少しずつ修正することで実現しようと提案するものです。
なぜ、賃金格差が問題なのかについては、データを示して解説しています。低賃金の人たちは、それゆえに追加でもらったおカネをほとんど消費に回して、景気をよくする人たちです。他方、高賃金の人たちは、安倍政権が財界にお願いして実現しそうなボーナスアップなどを、おそらくかなりの部分、貯蓄(住宅ローン返済もマクロ経済では貯蓄にふくまれます)に回してしまい、それゆえに景気を悪くする人たちです。個々には、これと異なる行動をとる人がたくさんいますが、日本全体で平均的にみると、このような傾向が顕著です。
問題は、日本の賃金格差の背景にある社会構造をみると、ある意味で、アメリカよりもずっと不平等であることです。日本の賃金は、「男性・大企業社員・正規雇用・長期勤続(中高年)」の属性をもつ人が突出して高く、これらの属性のどれかがなくなると、平均的には、大幅に賃金が下がります。「女性・中小零細企業社員・非正規雇用・短期勤続(若者)」のどれかの属性をもつ人たちは、世界の主要先進国中で最悪といえる賃金格差に直面します。属性による賃金格差がひどいという意味で、私は、日本の賃金格差はアメリカよりずっとひどく、賃金はきわめて重要ですから、日本はアメリカより不平等な国だといえると考えます。
中国の経済格差も相当にひどいのですが、ある程度以上の経済力がある国では、相対的な貧困が問題になりますから、日本は、中国に似た感じの経済格差を抱えていると みてもいいでしょう。これが少子化にもつながっています。
女性にこそ読んでほしい、中小零細企業で働く人にこそ読んでほしい、非正規雇用のかたちで働く人にこそ読んでほしい、若者にこそ読んでほしいと考えて、今回の本を書きました。
つまり、私は、単純に賃金が上がればいいなんていっていません。女性の賃金が上がること、中小零細企業で働く人の賃金が上がること、非正規雇用者の賃金が上がること、若者の賃金が上がることが、日本の本格的な景気回復のためにはどうしても必要なのです。方法はあります。過去の日本経済で起きたことを参考に、データを示してそれを論じています。どうぞよろしくお願いいたします。

日本政府と一部のメディアは、MRIインターナショナルのMARS投資についての自分たちの罪をごまかそうと必死になっている?

MRIインターナショナルのMARS投資について、何度も書き込んでいて、おそらくこれを読んでいるマスメディア関係者もいらっしゃるでしょうから、マスメディアへのお願いを兼ねて、再度書きます。……約10日前に新刊を出したところで、せっかく、いくつもの好意的な書評をネット上に載せていただいたところなのに、わざわざマスメディアを敵に回すかもしれないような内容を書くのは、本当にバカげたことだとわかっています。
しかし、この機会に日本政府とマスメディアのひどさを指摘しておくことで、日本政府も日本のマスメディアもまったく信用できないから、変な金融商品に投資をすると、簡単に全額を失う危険性が高いことを、ぜひ知っていただきたいと思いますから、あえて書きます。
まず、取材を受けたうちで、私のコメントが掲載された(らしい)ものを引用します。下記リンク先の記事に載っています。……ただし、広島で買った産経新聞には掲載されておらず、限られた地域での掲載だったと想像します。
私のコメント部分だけを引用すると……
「MRIの金融商品は、機関投資家ではなく一般投資家を狙った投資詐欺の疑いがあり、構図としては古くからある手口だ。海外に拠点を置き、アメリカの診療報酬請求債権を投資対象とする点が新しいといえる。仕組みが複雑なため、投資家にとっては理解が難しく、同社の高利回りが可能という説明についても疑問を持ちづらかっただろう。投資先を医療制度に関連させたことで安心感を持たせ、破綻しづらいと思わせており、巧みな手法といえる」
取材の際には、「2007年春の時点で私がMRIインターナショナルのMARS投資の情報を得たときに、なぜ、すぐに投資詐欺と断定したか」をていねいに説明しており、他の取材対応でもそうでしたが、当時の「週刊ダイヤモンド(2007年6月16日号)」の記事を必ず読んでもらってから説明しています。そして、産経新聞の記者は、円建てと米ドル建ての金利の差をみれば、すぐに投資詐欺だと気がつくべきものだったという解説に納得したという趣旨のメールを返信してきたのですが、この肝心の部分は記事になっていません。これは、金融の基礎知識がない人には内容がちょっとむずかしい(ただし、FXをやっている人ならすぐわかる)ので、仕方がないとも思えます。
私がブログで最初にMRIインターナショナルのMARS投資について書いてから数時間のあいだに、5人のマスメディア関係者とこの件について話をしました。他に、MARS投資の被害者からのご相談のメールもありました。
マスメディア関係者のほとんどは、AIJ事件との類似性について質問してきました。そして実際に、本件について報じた多くの記事が、AIJ事件に類似したものとして報じています。
しかし、AIJ事件とは根本的に異なる、と私は説明しました。何度も質疑をしたうえでこれに納得してくれた記者もいました。ものすごく荒っぽくいえば、AIJはただ運用が下手で(運用がおそろしく下手な野村證券の出身者がつくった会社ですから、納得できることで)、それで資産をどんどん減らしてしまったのですが、最初から投資詐欺をやりたかったわけではないでしょう。そもそも、運用方法はAIJに任されている。他方、MRIインターナショナルの場合は、MARS投資という明確な運用方法が決まっていて、本当にそれをやる気などないことが、すぐにわかるものでした。つまり、MRIインターナショナルのMARS投資は、最初から豊田商事、平成電電、近未来通信のような投資詐欺として企画されたと考えるべきものでした。詳細は、これから明らかになるでしょうが、6年前に私が投資詐欺にくわしい人たちにMRIインターナショナルのことを話したところ、誰もが「おそらく投資詐欺にちがいない」と推理しました。
ところが、どうやら日本政府がAIJ事件との類似性に注目させるように誘導した記者発表をしたようで、マスメディアもそれに乗っかっています。たとえば、下記のような記事が出ています。
金融知識がない個人を狙って、かつ、新聞広告や芸能人の広告塔を使って資金を集めたところを考えれば、AIJではなく、平成電電や近未来通信などとの類似性に注目すべきですが、そうすると、少なくとも6年前には政府機関のなかにもしっかり投資詐欺の疑いが濃厚との情報をつかんでいる人間がいて、週刊ダイヤモンドのように注目度が高い経済専門誌がきちんと取り上げていたMRIインターナショナルのMARS投資について、日本政府や他のマスメディアがそれを放置し、むしろ被害拡大に手を貸すかたちになったことを追及されやすくなります。
それは不都合なので、AIJとの類似性を強調したいという点で、日本政府と、MRIインターナショナルの広告を載せたマスメディア(さらに、平成電電や近未来通信の広告を載せ、TVCMを流したマスメディア)は、利害が一致するのかもしれません。実際に、AIJのときにはあれほど大騒ぎしたのに、現時点でわかっているだけで1300億円を超えるといわれる投資詐欺のMRIインターナショナルの報道での扱いがいきなり小さくなっています。どういうことなんでしょうか? やはり、本件は扱いたくないのでしょうか?
でも、いずれMRIインターナショナルの実態が暴かれることを考えれば、マスメディアは、AIJとの類似性でMRIインターナショナルについて解説するのをやめて、豊田商事、平成電電、近未来通信のような投資詐欺との類似性で解説するように、早く方針変更するべきだと思います。ぜひ、お願いします。

某テレビ局はなぜ、無理して撮影した、MRIインターナショナルのMARS投資に関する私のインタビューを流さなかったのか? ひとつの見方

どうも放送されなかったようですから、子供との約束を後回しにしてまで(その事情を相手も知っていたのですが……)テレビ局に行ってインタビューに応じた映像が、どうして流されなかったのかを、考えてみます。……ブログだから本音で書きますが、取材依頼をしてきた人たちは真剣だったと感じましたが、結局は悪徳商法の味方をしてしまいやすいテレビは放送できないのではないかと、私は予想していました。また、大手の新聞は、おそらくまともな報道はできないと予想していました。

第1に、新聞社もテレビ局も、やたらに広告塔になった芸能人のことを質問してきました。それで私は、この話を追求すると、御社の責任もおそらく問われますよと警告しつつ、私のブログでひとつ前に書いたような内容を話しました。それで、結局のところ、この話は新聞もテレビもまともに取り上げていません。はっきりいって、日本の新聞・テレビについては「信じるほうがバカ」と考えるべきです。
今回のMRIインターナショナルのMARS投資は、これをまともに調べるほど、日本の新聞・テレビは詐欺被害を拡大する主因となってきたという不都合な真実が明らかになります。
第2に、たとえば、多くのマスメディアは、MRIインターナショナルのMARS投資のような特定の海外投資商品について、自社の新聞を信頼して購読してくれている顧客や、自社のテレビ視聴者のことなどなにも考えずに、金融商品を好意的に取り上げることが多すぎます。MRIインターナショナルの広告の件は、おそらくネット上でたくさん取り上げられているので、別の事例を紹介しましょう(なお、下記に取り上げる企業・金融商品について、私は、たとえば投資詐欺と断定するような記述を決しておこなっていないはずであることを、申し上げておきます……私がわざわざこのように断る理由については、よくご推察いただければさいわいです)。

2013年4月28日 (日)

MRIインターナショナルのMARS投資は投資詐欺であり、被害が膨らんだのは一部の新聞社と日本政府が原因

4月26日は「MRIインターナショナルのMARS投資」についてブログに書いたために、いろいろな取材依頼が来て、とにかくたいへんでした。
私は広島市内に住んでいる子供を開催中の「ひろしま菓子博2013」に連れて行くなどの連休中の約束がたくさんあったので、25日の夜から広島の家に戻っていました(もともと単身赴任状態です)。
それが、急遽、26日に全国ネットのテレビの取材依頼が来て、系列の広島市内に本社があるテレビ局に、インタビュー撮影に行ったりして、そのあと、ひろしま菓子博に行ったら、当日券が売り切れていて(しかし、近くで前売り券は販売されているという、お役所仕事的なメチャクチャぶりで)、結局、27日に「名探偵コナンの映画」と「ひろしま菓子博」と子供が大好きな「回転寿司(かつて拙著『スタバではグランデを買え!』で取り上げたお店が別の場所に移転したもの)」に子供を連れて行き、28日(今日)は「タケノコ掘り」に家族で行きました。
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明日も子供の遊びにつき合う予定が入っており、単身赴任状態であるためにこうした連休には家族でいろいろ予定が入る父親にとって、MRIインターナショナルのMARS投資に関連した取材対応はとてもたいへんでした。
とはいえ、金融庁の発表と新聞報道などに強い違和感がありますので、改めて、MRIインターナショナルの詐欺事件のポイントを解説しておきます。……金融庁とマスメディアは、もともとはまともな運用をしていたのが、最近、巨額損失になったというストーリーの可能性を捨て切れておらず、むしろ、そのストーリーをメインに説明しているようです。
そんなはずはありません。最初から投資詐欺を狙ったものとみるべき理由については、「続・MRIインターナショナルのMARS投資について 2007年に私が投資詐欺だと断定した理由」ですでに指摘していました。しかし、もう何年も前から投資詐欺とわかるものだったと認めると、金融庁の責任が重くなります。また、広告を載せていた新聞社の責任も重くなります。だから、これほどの巨額被害が出た事件なのに、自分たちの保身のために、専門家からみれば違和感がある報道がなされています。
そこで今回は、「週刊ダイヤモンド」がMRIインターナショナルのMARS投資が投資詐欺ではないかと指摘する数ヵ月前に、「経済セミナー」という雑誌に私が載せた原稿の一部を引用します。
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 他に、金融取引に関係する犯罪として、キャッシュ・カードやクレジット・カードの偽造、株式市場などでの不正な取引(インサイダー取引や不正な株価つり上げなど)といったものもあります。2006年の1年間に大きな話題になった金融犯罪だけをみても、ライブドア事件、村上ファンド事件、日銀総裁の不正資産運用疑惑、未公開株詐欺、海外先物オプション取引による被害、近未来通信事件など、たくさんの金融犯罪が続々と発生していることがわかります。この中でも、ライブドア・村上ファンド・日銀総裁の問題は、金融市場での不正な取引に関するものですが、残りのものは投資詐欺に分類されるものです。とても残念なことですが、投資詐欺は、同じような事件があきれるほど何度も繰り返し発生し、被害金額も小さくなりません。巻き込まれる人たちが後を絶たないのですが、それは被害に遭う消費者側にも一定の問題があるからです。
 たとえば、2006年の終わりにかけて問題が大きく報じられるようになった、近未来通信の事件を考えてみましょう。同社は、有名な女優やスポーツ選手を起用した派手な新聞広告やテレビCMで大規模な宣伝をおこない、女子プロゴルフの大会スポンサーになるなどして、知名度を高めた上で、各地で説明会を開催して、インターネットを利用したIP電話事業への出資者を募りました。出資者は何もしなくても高配当が得られると約束して投資を勧誘し、約900人の一般投資家から約200億円を集めたとされます。実態として、出資金の大部分はIP電話事業に回されておらず、投資詐欺の色彩が強かったと考えられます(詳細は今後明らかにされていくでしょう)。
 近未来通信事件の背景には、深刻な問題がいくつも存在しています。そもそも、近未来通信の出資金募集が怪しいことは、問題が表面化する前から多くの有識者が認識・警告していました。なぜなら、約1年前に、平成電電事件 が起きており、そこでも通信事業を隠れ蓑に、有名俳優を起用したテレビCMと出資金募集の新聞広告を大量に流して、実態としては投資詐欺に近いことをしていたからです。平成電電の場合にも、問題発覚前から経済誌などで疑惑が指摘されていましたが、その平成電電の問題が表面化した2005年秋の時点で、こういった問題について少しでも知識のある人たちは「近未来通信も同じような問題を抱えているはずだ」と考えました。それなのに、近未来通信の新聞広告やテレビCMは大量に続けられ、監督官庁も見て見ぬ振りをしましたので、いたずらに被害が拡大しました。
 ちょっと前に多数の被害者を出したとして大々的に報じられた投資詐欺と、ほぼ同じパターンの投資詐欺に引っかかる消費者側にも、確かに問題はあります。また、マスメディアの影響力は非常に大きいため、怪しい出資金募集の公告を掲載し続けた新聞社や、その広告を作成した広告代理店、広告塔となったタレント・スポーツ選手やその所属事務所の責任を問う声もあります。しかし、過去のこういった投資詐欺事件を振り返ると、マスメディアや広告塔のタレントなどの損害賠償責任を追求することは、極めてむずかしいようです。(投資詐欺事件で被害者側の弁護をする経験を多く持つ弁護士から、「損害賠償でなく、利益還元を求める仕組みにするべきだ」との意見を聞いたことがあります。被害への荷担を問うことはむずかしいので、損害賠償は請求しにくいとしても、せめて投資詐欺をおこなった会社との取引によって得た利益だけでも、被害者に返還してほしいということです。こういった考え方が認められるようにならない限り、マスメディアやタレントの側には、投資詐欺が疑われる会社との取引を避けようというインセンティブが働きません。だから現在の日本では、有名人を起用した新聞広告・テレビCMがたくさん流れていても、プロスポーツの大会を主催しているとしても、その会社を信じる材料にはならないと覚えておくべきです。)
 つまり、新聞やテレビで宣伝していても、有名人が推薦していても、彼らは責任を取らないのですから、信用してはいけないことになります。日本では、こういった点での金融教育が大変に不足していることも問題です。また、平成電電や近未来通信の事件では、通信事業を監督する総務省の対応が遅れたことが、被害を大きくしました。こういった投資詐欺に遭った人たちが被害救済を訴えても、裁判などでは「安易に儲けようとした方も悪い」とみられてしまいがちです。つまり、投資詐欺を防いだり、被害を救済してもらう上では、日本の政府(行政や司法)は頼りにならないと考えておくべきなのです。(ただし、各地の消費生活センターや国民生活センターなどは、投資詐欺などの消費者被害を防ぐために大変有意義な活動をおこなっています。消費者被害を救済する立場で活躍されている弁護士もたくさんいます。それでも、日本の行政・司法全体としてみると、この問題では頼りにならないものだと思っておく方が、消費者としては無難です。)
 毎年、何らかの投資詐欺の被害者がたくさん出る一方で、そういった犯罪には絶対に引っかからないと思われる人も多数います。「簡単におカネが増やせるという話は、怪しいに決まっている」と考えている人は、投資詐欺には引っかからないからです。そこで、過去の投資詐欺の事例をいくつか振り返ることで、簡単に儲かる話が存在しないことを確認してみましょう。
 20年以上前の犯罪でありながら、今も多くの人々の記憶に残るだけでなく、現在の投資詐欺にも大きな影響を与えているのが、豊田商事事件です。トヨタ自動車を連想させて信用を得ようと名付けられた会社(もちろん、トヨタ自動車とは無関係)ですが、犯罪マニュアルを用意して社員を教育するなど、たいへん狡猾な犯罪者集団でした。豊田商事は1981年から営業を開始し(1981年の会社名は大阪豊田商事で、1982年に豊田商事に社名変更し)、独り暮らしや夫婦二人暮らしの高齢者をターゲットに、年15%の収益を保証して、金(きん)の投資話を持ちかけました。豊田商事はカネと引き替えに金の現物を渡すのではなく、「純金ファミリー契約証券」なる紙切れを渡しました。金の預かり証であり、発行された純金ファミリー契約証券に見合うだけの金(現物)を豊田商事が買い、それを運用して収益を稼いでいるはずでした。これをペーパー商法(現物まがい商法)と呼びます。もちろん、最初から投資詐欺を目論んでいた豊田商事は、現物の金などほとんど買っておらず、高齢者などから集めたカネは社員が山分けしてしまいました。
 1985年に社会問題化した豊田商事事件の被害額は、約2000億円とも言われていますが、被害を隠す高齢者も多いため、本当の被害額は知られていません。豊田商事の残党(社員として投資詐欺のノウハウを学んだ人たち)は、その後も類似の犯罪を引き起こし、今でも投資詐欺をおこなっていると噂されています。特に、身寄りがいなくて孤独感を感じている高齢者や、身体や精神に障害を持つ高齢者に対して、最初は親切な態度で近づき、生活資金までもごっそり奪うという大変卑怯なやり方は、あとから続々と誕生した悪徳商法に引き継がれました。
 バブル崩壊後の1996年にはKKC(経済革命倶楽部)事件が、翌1997年にはオレンジ共済事件が表面化して、それぞれ関係者が逮捕されています。特にオレンジ共済組合は、当時現職の参議院議員であった友部達夫氏が国会議員の肩書きを利用して首謀した投資詐欺組織で、「オレンジスーパー定期」という、一見すると定期預金を想像させる金融商品などで資金を集めました。当時の一般的な定期預金金利の2倍以上、年6~7%の高金利を売り物に、約80億円の資金を集めて、家族で浪費したりしました(かなりの部分が他の政治家に流れたとも噂されています)。投資話においては、現職の国会議員でさえまったく信用できないことがわかります。
 2001年に破綻した大和都市管財の事件は、近年では最大規模の約1100億円もの被害金額となりました。大和都市管財は全国規模でゴルフ場やレジャー施設などを所有し、それを担保に高利回りの抵当証券などを発行し、やはり高齢者層を中心に資金を巻き上げました。この事件でも、豊田商事のやり方は継承されていました。親切そうに高齢者に近づき、まめに訪問し、盆暮れには贈り物をして、信頼を得た上で生活資金を奪うというやり方です。
 大和都市管財事件の裁判はまだおこなわれているところですが、被害者の弁護団は国家賠償訴訟も起こしています。この事件の被害が巨額になった理由のひとつに、近畿財務局が抵当証券業者としての登録を認めていたという事実があったからです。裁判結果は予想できませんが、事件の最中に行政が監督責任を十分に果たしていなかったのは明らかなように思われます。
 いずれの事件でも、集められた資金は派手に浪費されていますから、被害者に戻ってくるカネはとても少ないのが実情です。しかも、投資詐欺の被害者は精神的な苦痛も味わうことになります。犯罪被害者として同情されるのではなく、欲ボケによる報いとして非難されることが多いからです。またこのことが、被害を表面化しにくくしており、高齢者を狙う詐欺集団は、それを悪用しています。
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 この記事が指摘するような状況下でも、MRIインターナショナルのMARS投資は、当時(2007年前半)には、大手の新聞に広告を載せることができて、また、日本政府もそれからさらに6年間、みてみぬふりを続けました。だからこそ、この記事で紹介した投資詐欺事件の被害規模と比べても、相当に大きいといえる規模まで被害が膨らんでしまったのでした。この点については、前回の「続・MRIインターナショナルのMARS投資について 2007年に私が投資詐欺だと断定した理由」にきちんと書きました。そこに書いた論理は、当然、日本政府にもわかるはずの論理で、しかも、私は日本の政府機関にこの件での指摘をしていました。「週刊ダイヤモンド」も取り上げました。それにもかかわらず、広告を載せた新聞社や日本政府は、詐欺被害拡大に実質的に手を貸したといえます。
 ところで、当時、私が日本の政府機関などに「これもきっと投資詐欺でしょう」と情報提供したものがあります。私が話を伝えた相手(こうした被害に対処する政府機関の公務員)は、個人的には投資詐欺であるだろうと認めていました。また、上記に引用した原稿の後半で、私は日本の大手金融機関が扱う金融商品にもきわめて怪しいものがたくさんあると指摘しました。今回のMRIインターナショナルについてのニュースをみて、「私が投資している金融商品はMRIインターナショナルのMARS投資とは異なる」と信じている人も、本当にそういっていいのかをよく考えたほうがいいでしょう。

2013年4月26日 (金)

続・MRIインターナショナルのMARS投資について 2007年に私が投資詐欺だと断定した理由

2時間ほど前に書いた「MARS投資についての投稿」を、2時間も経たないあいだに800人近くが読んでくれたようです。そこで、もう少しきちんと解説をしようと思います。

いつも私のブログをみていた方は、私が10日前までほとんどブログを更新しておらず、4月18日に拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)が出版されるのに合わせてブログを実質的に再開したことをご存じかと思います。しかし、10日前には1日に100人も読まないブログだったのが、ここ数日書いたように「人気作家の橘玲さんのブログで書評を載せていただいた(ネット上の書評でいちばん有名な小飼弾さんや、これまたネット上では著名な池田信夫さんも、書評で取り上げていただいた)」ことをきっかけに、昨日は、アクセス数が急増し、1日で200人を超える人がこのブログにきてくれました。すごいと思っていたのですが、それが、今日の数時間だけで1000人を軽く超えようとしています。
マスメディアが、きちんと情報を伝えないからでしょう。伝えられない理由があり、この点は、先ほども書いたように、マスメディアが広告を載せてMRIインターナショナルの詐欺に加担したかたちであったからです。とりわけ、平成電電と近未来通信が大きな問題になり、新聞社もテレビ局も批判されてからまださほど間をおかない時期に、内部告発者によれば、新聞社内でも反対する人がいるなかで、あえてMRIインターナショナルのMARS投資の広告を載せた新聞社があったからこそ、1300億円も集まってしまったのでした。
その時点で、怪しいと気がつけたはずの理由はいくつもありますが、FX投資などをやっている人ならすぐにわかるポイントがあります。私はすぐにこれに気がつき、週刊ダイヤモンドの記者がこの点をMRIインターナショナルに問い合わせた(しかし説明はしてもらえなかった)うえで、記事にしました。
当時、MRIインターナショナルがMARS投資の利率としていたのが、
「円建てなら6.0〜8.0%」(以下、すべて年率)
{米ドル建てなら6.5〜8.5%」
です。金額によって利率がちがいますが、円とドルの利率差は0.5%しかないといえます。当時、2つの通貨の金利差はもっとずっと大幅で、3%ほどでした。だから、ふつうに為替予約でリスクヘッジをしているのなら、円建ての利率は3%低くないとおかしい。だから、これは投資詐欺だと確信しました。記事を実際に書いた記者も、それは確信していたと思います。しかし、被害が表面化していないので、名誉毀損になることを避けて、記事では投資詐欺とは断定していません。……きちんと読めば、投資詐欺だとほぼわかるように、巧みに書かれた記事でした。
これをふくめて、この金融商品の怪しさは、新聞社の人たちも当然にわかったはず。ですから、内部でも広告掲載に反対して強く警告した人がいたことが、内部告発者を情報源とした週刊誌報道に出ていました(どこまでこれを信じるかは、むずかしいところかもしれませんが)。
平成電電と近未来通信があれだけ問題になり、海外投資を売り物にした怪しい金融商品の被害も相当に問題になっていた時期に、それにもかかわらず、大手新聞がこのMRIインターナショナルがMARS投資の広告を載せたことで、かえって、このMARS投資やMRIインターナショナルはそうした詐欺とはちがうと感じた人たちがいて、それゆに詐欺に引っかかってしまったということがあっても、おかしくないはずです。したがって、今回の問題で実質的にいちばんの加害者といえるのは、広告を掲載したマスメディアだと、私は考えます。

MRIインターナショナルによるMARS投資が投資詐欺であることがやっと暴かれるようだが……

もう何年も前からずっと「おそらく投資詐欺だろう」と指摘されながら、処分を免れてきた金融商品がいくつかある。そのうちのひとつが、いまになってやっと行政処分の対象になろうとしている。
他の新聞も報じている。
問題は、MARS投資にどうして1300億円ものおカネが集まったかだ。
じつは、2007年6月16日号の「週刊ダイヤモンド」が、このMRIインターナショナルのMARS投資を取り上げている(56〜57ページ)。「金融商品の罠」特集号で、この1冊の雑誌のなかで、週刊ダイヤモンドの記者でもない(当時は南山大学経済学部助教授だった)私が、ひとりで10ページ以上の寄稿をしている。このあとサブプライムローン問題が表面化するのだが、その前に、そのあとで日本中で問題となったデリバティブ商品の問題点をいちはやく指摘したのも、この号の「週刊ダイヤモンド」に載った私の原稿だ。
MARS投資の怪しさを指摘した記事は、ダイヤモンド社の記者が書いたものだが、その元になった資料は、私が提供したもので、この商品を取り上げてほしいと、寄稿と引き換えにお願いしたのは私だ。どこが怪しいかの指摘も、最初に私が解説して、そのあとでさらに調べていただいた。
では、そのMARS投資の資料はどうやって入手したのか? 当時の同僚の先生が新聞広告をみて資料請求して入手し、私に意見を求めてきたうえで、詐欺だろうという説明に納得したあと、私にくださったのだった。その先生(南山大学経済学部教授)は、最初から怪しいと感じながらも、一流の新聞に広告が出ているのだから、取り寄せてみようと思ったとのこと。
私は、ダイヤモンド社などの記者にみせるつもりで譲り受け、実際に記事につながった。
そのあと、他の週刊誌でも少し問題にされたと記憶しているのだが、証拠がいま手元にない。記憶で書くことをお許しいただくとして、他誌が問題にしたのは、このような金融商品の広告を大手新聞が掲載していることだった……そう記憶しています。しかも、今回、このニュースを報じている新聞とかに広告が出ていたのだと記憶しています。
そのあとも、私がGmailを使うときには、頻繁にMARS投資の広告が表示されてました。つまり、大手新聞などが広告収入を稼ぎながら、このMARS投資の資金集めを手伝った結果、1300億円ものおカネが集まったのだ。
こうした投資詐欺の被害回復を担う弁護士は、何度も、新聞社や、広告塔となった芸能人やスポーツ選手(元スポーツ選手をふくむ)に、少しでも被害回復に協力してほしいとうったえてきた。しかし、新聞広告やテレビCMが問題であったケースで、それが実現したことはない。
だから、大々的な広告で被害を甚大にした平成電電が詐欺とわかったあとも、近未来通信、そしてこのMARS投資の広告を、大手新聞が掲載してきた。これがいかにひどいかを、その新聞社のOBが週刊誌で指摘したりしたのだが、改善されなかった。
おそらく、当時広告を載せながら、今回それに言及せずに報じている新聞は、この不都合な事実をすっかり忘れて、今回の報道をしているのではないかと想像する。
しかし、ちょっとみれば怪しいことがわかるはずのMARS投資が1300億円ものおカネを集めることに成功したのは、明らかに、メディアの広告の力である。今度こそ、自らも加害者であることを新聞社などが認めることを願っています。

2013年4月25日 (木)

拙著『日本の景気は賃金が決める』から削った内容の紹介 政府の白書がもっと読まれることを期待する理由

過去のブログなどを読んでいただいた方はご存じであったりすると思いますが、私は、1冊の本を書くときに、多めに書いてから何割かを削って完成させます。今回の『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)でも、ある程度削った部分があります。そのひとつをご紹介します。

ところで、ここ数日のあいだに、ネット上のカリスマである小飼弾さんと橘玲さんのブログで拙著の書評を載せていただいたのですが、共通して引用していただいた図表がこれです。
62_5
この子供の貧困についての驚くべきデータは、じつは、2011年と2012年の何冊もの白書で強調されていたものです(オリジナルにはもっと詳細なデータが載っています)。この表は私がポイントだけ整理したものです。
それで、拙著の原稿で削ったもののひとつが、日本政府の白書があまりにも読まれていないことについて、もっと読まれるようにしないとダメだと強調した部分です。日本では子供の貧困の問題がひどいことを、OECDが指摘して、それを日本政府は隠すのではなく、子育てについて取り上げた白書では、必ずといっていいほど掲載し、強調してきました。もちろん、子ども手当と高校無償化をひとつの売り物にした民主党政権下の政策を正当化しようという意図が働いたのかもしれません。……ただし、拙著で解説したように、そうした単純なバラマキがむしろ問題だったともわかる皮肉なデータなのですが。
いずれにしても、子育てや経済格差といった問題に関心がある人が、それに関連する白書のどれかを読んでいれば、すぐに気がつく可能性が高いデータでした。それなのにあまり話題にならず、しかし、改めて示されると、多くの人が重要なデータだと感じてくれます。
つまり、日本政府が相当なおカネと人材(労力)を注ぎ込んで毎年作成しているたくさんの白書のうち、経済社会に関するものは、社会的にほとんど活用されていない状況なのです。昔は、経済白書がもっともっと読まれていて、経済学部の3・4年生なら、経済白書と通商白書を読むのがふつうで、ビジネスマン向けにも、経済白書を全文掲載して関連記事もつけたものが、ビジネス週刊誌の特集号として書店に山積みになっていました。
その後、経済白書の執筆者たちがやたらに内容を専門的にしてしまい、それで読まれなくなりました。しかし、いまの白書はかなり読みやすくなっています。
アベノミクスの金融政策は、国民の予想(期待)に働きかけるものです。しかし、日本国民の大多数は経済の論理にくわしくないので、そうした政策の効果を高めるには、下地として、国民に日本経済の現状や基本的な経済のしくみをわかりやすく説明する努力も重要になるはずです。
それなのに、マスメディアさえ、基本的なデータをまったくみようとしない。
この問題についてのいちばんの対策として、筆者は、経済系の白書の活用を強く推したいところです。昨年の夏に出た「経済財政白書」や「労働経済白書」は、日本の景気や賃金や消費者物価について、本当に役に立つ分析をたくさん載せています。
今年の白書もまた、景気・賃金・消費者物価についての分析をたくさん載せるでしょう。白書には、政府の政策を肯定しようという意図も入りますが、そのあたりを推測しながら読みこなすために、昔は、白書を全文掲載しながらも、独自の解説がついたビジネス週刊誌の特集号がたくさん売れたのでした。
皮肉なことに、いまでも経済系の白書を全文掲載して独自解説もついた本の発行が毎年続いているものがあり、それは、アメリカ政府が出すアメリカの経済白書(のようなもの)を全文掲載したものです。しかし、日本の経済系の白書については、そんなものは出版されなくなりました。……嫌になります。
とにかく、経済系の白書がもっともっと読まれるようになることを願っています。

2013年4月24日 (水)

人気作家の橘玲さんのブログに拙著『日本の景気は賃金が決める』の書評を載せていただきました

何度も私の新刊『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)をネタにして申し訳ございません。
しかし、本当にうれしいニュースがありましたので、書かせていただきます。
たいへん尊敬する人気作家の橘玲さんが、ブログで拙著を取り上げて、しかも、私がいちばん強調したかったところをご紹介してくださったのです。
そもそも、本書の企画は、別の出版社での企画だったのに、不幸な理由で企画が通らず、それを講談社現代新書ですぐに引き受けていただいたのですが、打ち合わせから1ヵ月で書きました。ただし、その前に1ヵ月、関係する白書などをていねいに読み込んでいました。
その努力が無駄にならず、すぐに講談社現代新書で出版できたのは、他社で企画にNGが出る20日前に、橘玲さんのブログで過去の拙著『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)の書評を掲載していただき、それで講談社の現代新書出版部の方々が今回の本をその続編ととらえてくださったからです。
今回の原稿には自信があり、ですから、時間をかければ他社でも出していただけたと思いますが、打ち合わせから1ヵ月で書き上げ、最短の出版をしていただくことができました。本当に幸運に恵まれたと感じ、感謝しております。
これで、全国発売(4月18日)から1週間以内に、池田信夫さん小飼弾さん橘玲さんという、あまりに豪華な方々に好意的な書評を書いていただくという、これ以上ありがたいことはないといえるほどのスタートを切ることができました。
橘玲さんの書評をお読みいただくとわかると思いますが、私は本書を、女性に、非正規雇用者に、中小零細企業で働く人に、若者に、また、子育て世代の方に、ぜひ読んでいただきたいと強く思って書きました。その意味では、ビジネス書が売れそうにない層の人たちばかりにアピールするという、ビジネス書のマーケティングとしては失敗が予想されやすい本です。執筆中に、この点を講談社現代新書の出版部には何度かおわびしましたが、それでも自由に書かせてくださった講談社のみなさまには心から感謝しています。
今日は本当にいい1日になりました。

2013年4月23日 (火)

円安では賃金は上がらない マスメディアの報道は無責任

今年(2013年)1月に、日本銀行と安倍政権が年2%インフレ目標を宣言したとき、マスメディアの主流の解説は、これで円安が進み、企業利益が増えて、賃金が上がるというものでした。このとき、私は日本のマスメディアの不勉強に怒ったのですが、最近になって、実際に円安が進んだのに、大半の日本国民の賃金が上がらないことを、今度は意外な現実であるかのように報じています。

日本のマスメディアは、こと経済報道についてはまったく信じられず、本当にひどい。
円安誘導によって企業利益が増えても、日本全体でみて賃金は上がらない。この点は、2011年と2012年の『労働経済白書』に、しっかりと過去のデータが整理されたうえで示されています。同じ分析を続けて掲載しているのですから、強調しているともいえます。
これを読むか、同じデータを調べるかすれば、そもそも1月のマスメディアの解説がまちがっていたことが明白です。それなのに、大まちがいの解説をしておいて、現実がそうならなかったのをみて、また騒ぐ。もうメチャクチャです。
経済について興味があって、正しい情報を知りたい人は、まずは白書を読むべきだと思います。
なお、円安誘導が日本全体の賃金上昇につながらない理由については、拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)で解説しています。輸出で儲かる製造業の賃金は上がるのですが、その代わりに、他の人たちの賃金が下がり、じつは後者の効果が大きいことを、データを示して説明しています。

2013年4月22日 (月)

都市部に人口を集めることは、やっぱり必要! 池田信夫氏と小幡績氏の議論に対するコメント

すでに私もこのブログでコメントした、東京などの地下鉄の24時間化案をふくめて、人口を都市部に集積させるべきかどうかの議論が、池田信夫氏と小幡績氏とのあいだでおこなわれています。もともと、拙著もそのきっかけになったようなので、整理して、私の意見も述べておきます。
まず、池田信夫氏が4月19日に拙著の書評を書いてくださいました(全国発売の翌日の書評で、たいへんありがたいことでした)。
下記に、その書評の一部を引用させていただきます。
「いずれにせよ、必要なのはインフレではなく成長である。著者の提案する成長政策は、人口の都市集中である。開発経済学などの最近の研究でわかってきたことは、経済成長を実現するもっとも効果的な方法は人口や公共投資を都市に集中することだ。」
その翌日の4月20日に、池田氏は「人口の都市集中が必要」との論説を掲載しました。
下記にその一部を引用させていただきます。
「必要なのは、3大都市圏と地方中核都市に人口を集中し、公共投資やインフラ整備もコンパクトシティに集約して効率化することだ。この点で、アベノミクスの中で一番バカにされている公共事業にも重要な役割がある。」
アベノミクスの公共事業拡大を都市部(政令指定都市や都道府県庁所在市などの都市部といえる地域)に注ぎ込み、交通網の整備をすることが望ましいという話を、阪急の創業者である小林一三氏の話を引用したり、各種白書からデータを引用したりして主張したのは、拙著でしたから、おそらく池田氏が拙著の内容から影響を受けて、しかし拙著にはなかったデータをお示しになって書かれた論説です。
これに対して、小幡績氏が4月21日に反対する論説を掲載しました。
小幡氏とは、金融庁の会議(審議会のようなもの)で何度かご一緒したことがあり、帰りに少しお話をさせていただいたこともあり、おもしろい方だと感じました。ただ残念ながら、読み比べてみると明らかなように、今回の論説は池田氏の論説をきちんと消化せずに書かれており、地方でも都市部に集めるという話を、勝手に東京一極集中に置き換えて批判しています。また、池田氏の論説がデータを示したうえでのものなのに、小幡氏はデータの裏づけがない批判です。ちょっと勇み足にみえます。
本日(4月22日)には、池田氏が反論を掲載しました。冒頭で、小幡氏の明らかな誤り(東京一極集中が提案されていたわけではない)を指摘しています。
なかなか興味深い話ですが、正直なところ、データが示されていませんので、自分で調べてみないとコメントできないという印象です。近年の私は、データ至上主義なので。
さて、拙著が都市部への人口集積を提案している根拠は、各種の白書です。そのなかでも、とりわけ内容が優れていると感じたのは、下記のものです。
この点は、すでに下記で書いていたことでした。
正直なところ、昨年の『厚生労働白書』などを読めば、いずれ都市部に人口を集めるしかないことは理解できるはずで、それを先にやっておくことで、経済成長戦略とすることができます。その根拠は上記の『地域の経済』などに書いてあります。
日本では人口が減って、かつ、少子高齢化が進むことが問題で、それでも経済成長をするには、人口の都市部への集積が有効だと私は考えています。

拙著『日本の景気は賃金が決める』についてのネット上での誤解に対して

日本の景気の本格回復のためには、第1に、賃金上昇が必要であり、第2に、低所得であるがゆえに追加でもらったおカネを消費に回しやすい人たちの賃金こそが上昇して、賃金格差が縮むことが必要だと、拙著『日本の景気は賃金が決める』で主張しています。ネットで、好意的に取り上げてくださる方がいらっしゃることは本当にうれしいのですが、それを読んで、そこに書かれたことがすべて私の主張であるかのように、また、そこに書かれたことだけが拙著の主な主張であるかのように引用する人がたくさんいます。

これはいつものことで、あきらめていることではありますが、今回は、ひとつだけ、釈明したいと思います。
賃金格差は、既得権をもった人たちを守るような政策がおこなわれやすいことが根本原因となっていて、そんななかで賃金デフレが賃金格差の拡大につながります。私は、これを「所得再分配政策」でなんとか是正することを提言しているわけではありません。
あくまで、資本主義経済のふつうの経済メカニズムのなかで低所得者の賃金が大幅に上がるためには、アベノミクスをどう修正すべきかを論じています。これが簡単でないことは明らかで、だから失敗の危険性があることも指摘したうえで、成功させるための現実的な提案をしているつもりです。
とはいえ所得再分配を否定するのもおかしなことで、所得再分配がおこなわれるのであれば、さらに望ましいとも思います。しかし、今回の本では、都市の交通整備への公共事業と、金融緩和によって起きる可能性がある都市部の不動産バブルを利用して、都市部に人口を集めることをメインとする主張をしています。
また、基本的にデータの裏づけがある話をつなげているつもりです。

『日本の景気は賃金が決める』について、さっそく2つの書評がネット上で出ていて、心から感謝いたします

こんなにたくさんアベノミクス関連本が出ていますから、なかなか書評も出ないだろうと思っていたところ、ネット上で影響力のあるお二人が、さっそく拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)についての書評を掲載してくださったので、驚きながらたいへん感謝しております。
池田信夫さんの書評
小飼弾さんの書評
正直なところ、アベノミクスの帰結について確固たる予想ができると思うほうがおかしくて、拙著でもそのあたりを前半で強調しつつ、後半では、専門的にみれば相当に荒っぽい部分もあるシナリオを提示していますので、ビジネス書通のお二人にこれだけ過分な好評価をしていただけるとは思いませんでした。
ありがたいことです。

2013年4月20日 (土)

成長戦略は必要か? 必要だとすると、なにをするべきか?

毎日のようにアベノミクス関連のニュースが流れ、アベノミクス関連の本がつぎつぎに出版されています。それで私も書いて出版してもらったわけですが、アベノミクスの3本の矢のうち、1本目の金融緩和と3本目の成長戦略が、いま話題になっています。

ここでは、成長戦略について、最新のニュースと拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)での主張を関連づけてみたいと思います。
そもそも、「成長戦略」というと、ほとんど誰もが新しい産業や新しい商品・サービスのイノベーションが必要だと考えるようです。しかし、景気を考えるときには違和感があるというのが、私の基本的な立場です。
ふつうに、いまお客さんが少なくて困っているお店に、たくさんお客さんが来るようになれば、経済は成長します。いまは深刻な不況で、だから、需要が増えれば経済は成長する。これはマクロ経済学の基本にそった考えです。
問題は、どうやって需要を増やすか。これも基本にそって考えるべきで、第1に、賃金が上がることが大切です。しかし、賃金アップを消費増につなげてくれる人の賃金を上げるべきで、これがむずかしい。賃金が先か、消費が先かという話になるからです。
起爆剤が必要で、そこで成長戦略が求められるのですが、それなら、別に新しい産業や商品でなくてもいい。これが私の主張が他のアベノミクス関連本の著者たちと異なるところです。
ところが、いまある産業と商品への需要はなかなか増えない。だから不況なのでした。そこで、都市部に人を集めるべきで、そのためにはアベノミクスの3本の矢の1本目で増やしたマネーを都市部の不動産に回し、2本目で増やす公共事業を、都市部に集めてやればいい。これが成長戦略の役割を果たす。やはり、経済学の基本的な考え方にそった主張です。
新しい産業や新しい商品が、どーんと経済を成長させてくれるなら、それはすばらしい。しかし、どの企業もこれまで必死にイノベーションの努力をしてきたのでした。だから、政府がいろいろやったからといって、急に、新産業や新商品が経済成長を主導すると考えるのは、ちょっと甘すぎるというのが、私の意見です。
上記のニュースにあるように「女性の活躍を成長戦略の中核」に据えるのはいいことです。しかし、この場合も、なにか派手な活躍を求めるのではなく、地味に非正規雇用で働く女性の賃金が上がることを考えてほしい。なぜなら、女性労働者のなかでは非正規雇用者のほうが多いからです。新しいなにかに注目するよりも、いまの経済活動において多数を占めるなにかに注目してほしい。だから、女性労働者に注目するなら、非正規雇用者に注目してほしい。
こうした考え方に徹して書いたのが、拙著『日本の景気は賃金が決める』です。

女性の雇用拡大も要請するけど、まずはミセスワタナベに期待ってことでしょうか?

安倍政権が、女性の雇用拡大を財界に要請し、育休の延長も求めました。
私は、拙著『日本の景気は賃金が決める』のなかで、女性の賃金を上げるような政策をしないと、景気は回復しないと主張しています。安倍政権の上記要請の方向性には賛成しますが、雇用拡大と賃金上昇は異なります。また、財界に要請して解決する問題ではないので、あくまで経済メカニズムが自然に働くかたちで女性の賃金が上がり、雇用も増えるのでなければダメだと思います。
そのためには、都市部に人口を集めることが大切だと、拙著では主張しています。つまり、すぐに効果が出る話ではない。
おそらく、いまの日本女性で、アベノミクス絡みでいちばん期待されているのは、ミセスワタナベと呼ばれるFX主婦でしょう。下記の記事からそれがよくわかります。
生保協会が今後、外債投資を増やすという情報を流しているのですが、これは、G20のニュースとも関連しています。日本政府としては、ここまでの円安誘導をG20で咎められずに済んだけど、他方で、さらなる円安誘導を露骨にやるのはむずかしくなりました(これは想定されたこと)。しかも、黒田日銀は、金融緩和のカードをすでに切ったので、しばらくは新しい円安要因を示しにくい。
そこで、機関投資家として円安の流れをつくり出しやすいとのイメージがまだ残る生保(かつては「ザ・セイホ」と呼ばれて影響力がたしかにありました)が、わざわざこういうコメントを出した。でも、生保はどちらにしても外債投資をしますし、いまや、そこまでの影響力もありません。このタイミングでわざわざこんなコメントをしたのは、いまやザ・セイホよりもずっと影響力がありそうなミセスワタナベによりいっそうの外貨購入を促そうという意図があるのではないかと、私は感じました。要するに、単純で露骨な情報操作だと思うのですが……、さて、さらなる円安は起きるのでしょうか?

2013年4月18日 (木)

『日本の景気は賃金が決める』発売&講談社Webサイト「現代ビジネス」にコラム掲載

今日から、吉本佳生著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)が全国発売になりました。
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最後に、年2%の消費者物価上昇率を達成するための「裏技」を示していますが、これに関連して、講談社のWebサイト「現代ビジネス」に寄稿したものが、やはり今日から掲載されています。少しだけ、本には書かなかったことも書いています。
どうぞよろしくお願いいたします。

2013年4月17日 (水)

今朝(4月17日・朝刊)の「朝日新聞」に写真つきのコメントが載りました

今朝は関西大学・会計専門職大学院の講義日で、朝イチの講義のために名古屋から大阪・吹田の大学に来て、しかも、途中でいろいろと作業をしたうえに、途中からダイエットのために歩いていました。そんなわけで、講義直前の教室でこれを書いています。

朝日新聞、2013年4月17日・朝刊に、下記の記事が載りました。私もコメントしています。
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時間がないので、この記事については、別にコメントします。

2013年4月16日 (火)

アベノミクスに乗ってさらに儲けたいなら、この金融商品かな?

アベノミクス期待で、株式投資や外貨投資がしばらくは儲かりそうだと、昨年の12月からみんなが予想し、予想の自己実現によって、ここまでは実際に株価上昇傾向、円安傾向が続いてきました。また、不動産価格の上昇も予想されていて、これも実際に、REIT(不動産投資信託)の価格高騰を後押ししました(REIT価格はアベノミクス以前から上昇傾向にありました)。

さて、このあとも上昇が続きそうなのはどの資産でしょうか?
そのヒントを拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)に書いたのですが、結論だけをまず示します。不動産価格の上昇に賭けるのがいちばん無難で、他方で、こうした金融緩和状況では資産価格の暴落の心配もしておくべきですから、流動性が高い資産に投資すべきです。この後者の論理については、昨年11月に出した拙著『むしろ暴落しそうな金融商品を買え!』(幻冬舎新書)でくわしく論じました。金融緩和によるバブル発生を想定しながら書いた本ですから、いまの金融市場に合った内容の本だと自負しています。
そんなわけで、REITがいちばんおすすめですが、もちろん、リスクは高く、大損の危険性もあります。それでもなお、REITが有望なのは、日本銀行の年2%インフレ目標政策が地価の上昇を必要とする構造があるからです。
昨年12月に私がアベノミクスについて話すのを聞いた人たちは、私が、日本国内の不動産価格がバブルといえるぐらいまで上昇すれば、政策として成功する可能性があると強調していたことを、覚えていらっしゃるでしょう。それから約4ヵ月、ほぼ想定されたことが起きています。ただ、ここから先になにが起きるかは、予想がとてもむずかしいと感じます。
このあとも不動産価格が上がり続けるかどうか、相当にリスクがあります。とはいえ、上がらなければ、大規模な金融緩和が続きます。逆に、インフレ目標達成によって大胆な金融緩和が終わるとしても、そのときには、地価の上昇傾向が続いている可能性が高いといえます。そして、インフレ目標に固執する黒田日銀であるかぎり、仮に地価がバブルといえそうなほど高騰しても、地価が下がるような金融政策はできないはずです。なぜそういえるかは、拙著『日本の景気は賃金が決める』に書いてありますので、明後日、4月18日の発売をお待ちください。

都市の地下鉄整備は景気対策として有効だと考えます

日経につぎの記事が出ています。

大都市中心に地下鉄などの交通網を整備しようということのようです。大賛成です。
じつは、拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)のなかで、都市部の交通網の整備が景気対策として有効だと指摘しています。たとえば、名古屋の地下鉄はもっと整備すべきだと、裏づけとなるデータなども示して主張しています。
都市部の交通整備は、都市部に人口を集めるうえで大切です。なぜ、都市部に人口を集めるべきかというと、サービス産業(広い意味のサービス産業である第3次産業は日本のGDPの4分の3を占める)の需要が増えるからです。この点については、内閣府による下記の報告書(一種の白書)がデータに基づいて論じています。拙著にそのポイントを引用していますが、もっと知りたい人は、下記の『地域の経済2012』(内閣府)を読むといいでしょう。

中国の経済成長率をどうみるか?

中国の経済成長率が「7.7%に減速」とのニュースが流れ、ニューヨークの株価にも影響したと報じられました。

今年の1〜3月期のデータで、それが4月中旬に発表になるなんて、……データがいいかげんなのは当たり前のことです。 そんなデータが、8%を「0.3%だけ下回った」とか、前期の7.9%を「0.2%だけ下回った」とかで、中国ではなく、アメリカの株価が下落する材料になったと報じられました。
このニュースからいえることはただひとつ。
金融市場関係者なんて、データを読めないバカばかりだ。……ってことです。
そして、マスメディアなどがこの風潮に迎合して、速報値の細かな数字のちがいにやたらに過敏な反応をしています。これは日本だけの問題ではなく、アメリカでも同じ問題があることが、今回の記事からわかります。
また今回は、中国経済では「年8%」の経済成長率が、景気判断を分ける「ハードルレート」であるように解説されています。アメリカや日本で、もし年7%の経済成長率が実現すれば、景気がよすぎると判断されます。それなのに、中国では不況という評価になります。正反対の景気評価です。
なぜ、中国の経済成長率のハードルレートは相当に高いのでしょうか?
説明がむずかしい(やたらに長い解説が必要です)ので、ここではくわしく書けませんが、「GDPに占める民間消費の比率」と「労働分配率」に注目することが大切です。
景気を考えるうえでは、この2つのデータが重要で、こうした基本原理は日本の景気にも当てはまります。……こちらの話のほうが、日本人には大切です。
日本のGDPの約6割(半分より大きい)は民間消費が占めていて、労働分配率も5割より高いといえます(どのデータをみるかの問題がありますが)。つまり、労働で稼いだ賃金が民間消費に回るという流れが、日本経済の本流だということです。
日本の景気について、輸出や投資に注目する記事がたくさん出ていますが、基本的なことを忘れています。比率を考えれば、圧倒的に重要なのは「賃金と民間消費」なのです。
ということで、くどいようですが、明後日の4月18日発売の拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)をどうぞよろしくお願いいたします。

経済統計ワンポイント解説(1)

基本的な経済データについて、新聞報道などを読むときの注意事項を指摘したいと思います。

第1回は、注目度の高い「GDP統計」。
内閣府のホームページで調べることができます。
総合的な景気判断のための重要データとして「経済成長率」があり、GDP(国内総生産)の実質ベースの変化率を経済成長率と呼ぶことがふつうです。
新聞などの日本のマスメディアは、経済成長率の「速報値」を大々的に取り上げますが、速報値は、けっこうな誤差があるデータです。たとえば、1〜3月の3ヵ月間の経済成長率を計算するとき、速報値では、いろいろなデータについて1〜2月の2ヵ月だけの数値しかみていないということがあります。選挙速報などでも、たまに当落をまちがって報じてしまうことがありますが、あれは一応、十分なデータが集まったところで判断しているはずです。経済成長率の速報値の場合は、発表する日程が決まっていますから、データが十分に集まっていなくても、とりあえず速報値を発表するしかないわけです。だから、相当にいいかげんな段階での経済成長率が、残念なことに、日本の報道ではいちばん注目されるという状況です。
インターネットを使えば、いくらでも自分で調べられるデータですから、経済成長率に興味がある人は、新聞記事を読むより、自分で内閣府のホームページを読むべきです。

ビッグデータ時代と騒がれているのに、消費者物価指数のデータはきちんとよまれていない?

「ビッグデータ」の時代といわれ、関連する本がいろいろと売れています。

とんでもなく膨大な量のデータという意味で、情報通信技術の進歩と個人による情報端末(ケータイ、パソコンなど)の利用増加によって、企業には膨大な顧客情報が流れ込むようになりました。
これをいかに活用するかについて、いろいろな企業がシステム開発におカネを投じ、人材育成を始めたといったニュースが目立つようになりました。データを分析する能力をもった人材は、今後、アメリカでも日本でも不足しやすく、だからおカネを稼ぎやすいといわれています。
文部科学省が、こうした情報化への対応として、学校教育での「確率・統計」の学習を増やしました。たとえば、昨年から高校の「数学Ⅰ」に「データの分析」という章が新設されました。
ところが、残念なことに、データ読解力を鍛えるうえで本当に必要な数学の項目が高校数学などから外れていたりして、ビッグデータ時代にどんな教育をするべきなのかは、まだきちんと確立していない感じです。
データ読解力は、ほとんどが経験値によって構成されているというのが、私の意見です。つまり、たくさんデータを読めば、データ読解力が上がるけど、理論の勉強だけでは、よほどの天才でないかぎり、現実社会のデータ読解力はさほど高まらないと考えています。
中学生や高校生に経済データを読むことを楽しんでもらえるようにと願って執筆し、3月に発売になったのが、下記の拙著『高校生からの経済データ入門』(ちくま新書)です。
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昨年の9月ごろに執筆を終えていて、新学期に変わるタイミングまで待って出版となった本で、そのため、アベノミクスを意識していないのですが、アベノミクスでいちばんのポイントとなる「消費者物価指数」のデータを第1章で取り上げ、あれこれ分析しています。
消費者物価指数は、膨大なデータをふくむもので、筆者もまだ全部は読み込めていません。それでも、アベノミクスについて拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)を執筆しているあいだ、毎日のようにながめていました。
消費者物価指数のように、細かなデータの積み上げでつくられたものは、細かく読めば読むほど、なんらかの発見があるものです。だから、アベノミクスの第1の柱が「金融緩和によって年2%の消費者物価上昇率をめざすインフレ目標政策」で、これを話題にするのであれば、まず、消費者物価指数のデータをていねいに読むべきです。
ところが、日本のマスメディアは、肝心の消費者物価指数のデータをまともに読まずに、しかしアベノミクスやインフレ目標政策について大々的に報じるという、あまりに稚拙な経済報道をみんなでやっています。
とくにひどいのは、マスメディアが『経済財政白書』などの基本的な白書をまったく参考にしていないことです。2012年夏に内閣府が出した『平成24年版 経済財政白書』は、インフレ目標政策に関連するデータを細かく分析していて、とても参考になるのに、それを引用して論じるという、とても簡単なことができていない。残念です。
あまりに基本的なことから指摘すると、今年1月に安倍政権と日本銀行が年2%の消費者物価上昇率を目標に設定すると発表したとき、いくつかのテレビ局の全国ニュースで、「1993年以降、年2%の消費者物価上昇率は実現していない」との報道がありました。
これは、全国ニュースで流す内容としては、あまりにお粗末なものでした。第1に、当時の日本銀行の記者会見で、当時の白川総裁が、2008年の夏に「前年同月比で2%超の消費者物価上昇が起きていた」ことに言及しています。一時的にではありますが、テレビ報道の解説とは異なる現象があったといえます。
また、地域別にみると、1年単位、つまり年平均でみた消費者物価上昇率が、21世紀に入ってからも年2%を超えたことがあるという地域があちこちにあります。2008年には、北海道・東北・沖縄地方でこの現象が起きています。これらの地域の生活者にとって、「1993年以降……実現していない」という解説はまったくのウソでした。
アベノミクスのインフレ目標政策に興味をもった人が、地域別の消費者物価指数のデータをていねいに読みさえすれば、いろいろなことに気がついたはずです。都道府県の県庁所在市のデータを片っ端から読めば、本当に年2%のインフレ目標達成が可能かどうかについて、とくに重要なポイントも発見できたでしょう。
私は実際にそうやって調べて、『日本の景気は賃金が決める』を執筆しました。
ブログのリニューアルに際し、過去の記事をすべて削除してしまいましたが、かつて書いていたことの一部については、必要に応じてまた書かせていただきます。
ここでは、私の仕事のやり方について書きます。ビジネス書の著者としての私は、他の人たちがおこなっている作業の何倍も多い作業をやることで、著者としての差別化をはかっているつもりです。私は、作業量で勝負するタイプです。
この点に自信があったからこそ、専任の大学教員を辞めて、著述業をメインにするフリーランスになろうと決意できました。いくら才能があっても、毎年たくさんの本を執筆することはむずかしい。でも、私の場合には、才能ではなく、作業量の多さを武器にしているから、安定して本の執筆が続けられると考えたわけです。
そんなわけで、著者としての稼ぎだけを考えるなら、他の人たちが消費者物価指数のデータをきちんと読まずにアベノミクスやインフレ目標政策について論じてくれるのは、私にとって有利なことです。しかし、基礎となるデータをきちんと読まない人たちがあまりに多い状況は、とても残念です。また、経済学者やエコノミストという肩書きをもつ専門家への不信がさらに強まれば、長期的にみて、私にも不利益です。
せっかく、ビッグデータ時代と騒がれているのですから、マスメディアや、広く情報発信をしている経済の専門家が、もっともっと基礎データを読むようになってほしいと願っています。

2013年4月15日 (月)

講談社現代新書『日本の景気は賃金が決める』の出版に合わせて、ブログをリニューアルしました

2013年4月18日(木)に、講談社現代新書で拙著『日本の景気は賃金が決める』が出版になります。価格は800円(税別)。

300ページを少し超えて、68個の図表を掲載していますから、お買い得な内容のはずと思っていますが……。
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写真は、一昨日受け取った見本を撮影したもの。
アベノミクスについて批判しつつ、現実的な修正案を示しています。
原稿は、2月上旬までに書き上げて、そのあと1ヵ月ほどの校正期間を経て、出版になりました。
講談社との打ち合わせは1月後半で、そこから1ヵ月以内に書きました。ただし、企画自体は12月の半ばから考えたもので、もともと別の出版社で出す予定だったのが、その出版社が「いまは、安倍政権の経済政策について批判的な本は出さない」という方針だとわかって、講談社にお願いすることになりました(この経緯を正直に講談社にご説明したうえで、たいへん好意的に対応していただきました)。
執筆開始まで、約1ヵ月間はあれこれ資料を読み、打ち合わせ後に一気に書き上げました。
年2%の消費者物価上昇を起こそうとするインフレ目標政策について批判していて、この政策を批判すると、ネット上でいろいろと叩かれることを覚悟して書きました。そして、本書の出版に合わせて、ブログをリニューアルすることにしました。
私の場合、敵が多い(たとえば、大手金融機関の人たちとか……)ので、営業妨害といえるような嫌がらせをされたりしてきましたので、大変申し訳ありませんが、予防措置をとらせていただきます。
過去2年ほど、ネット上ではFacebookでの情報発信を中心にしてきましたが、この機会にブログでの情報発信に戻りたいと思います。
3日後、4月18日の出版に合わせて、もっと情報を出したいと思いますが、今日のところはここまでとさせていただきます。

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